triste

 兎は悲観し、そして憂う




どさっ、

体に襲いかかった衝撃で目が覚める。
重い瞼を開けて周囲を見ればそこは牢のような場所で、両手には手枷がついていた。驚いて勢い良く起き上がるとぐらりと視界が歪む。

自分の意思とは反対に、体は床に伏すことになってしまった。


「起きたか。」
こちらに気がついたのか低い声が響く。なんとか振り返ればそこにいたのはあの刀使いのひと。未だに彼からの警戒は解けていないようで、こちらへの注意を外さない。
彼の隣には黄色い衣装を身にまとった、体つきの良い男性がいた。なんだか前田さんを思い出させる彼の容姿に、優しくしてもらった時のことを思い出す。

「これから貴様には兵士の怪我の治癒をしてもらう。」
涙が出てきそうになるのを堪えて彼らを見ていると、刀使いのひとがこちらを睨みながらそう言った。
その物言いに黄色いひとがぎょっと目を見開く。
隣のひとがそんな顔をしているのには気付いていない刀使いさんはそのまま続けた。

「貴様の力が必要になった時のみここから出してやる。それ以外はここから外に出ることは許さない。」
いいな。
念を押した刀使いさんに頷くと、彼は不機嫌そうに出ていった。
残されたのは黄色いひとと私だけ。鉄格子の向こうにいる黄色のひとは困ったように微笑んだ。


「すまないな、あいつはああいうやつなんだ。気にしないでやってくれ。」
それにも頷くと彼は鉄格子にぴったりくっついてこちらを覗き込んでくる。驚いて身を引くと彼はまた困ったように微笑んだ。
その微笑んだ顔は輪郭をぼやかしたように悲しそうに変わっていく。

「……御使い殿の瞳は綺麗だな。夕暮れのような綺麗な色だ。」
「え……?」
何か悲しいことでもあったのだろうか。しかし今まで気を失っていた自分に分かるはずもない。
大きくため息をついたそのひとは今度は明るく笑ってみせた。それはどう見たって悲しいのに無理をしている笑い方だった。
何故なら、今の彼は無理してる時の綱吉くんによく似ていたから。


「御使い殿、そちらに行ってもいいだろうか?」
「え…? はい、構いませんけど……」
「そうか!」
唐突な彼の声に驚きつつ答えると、彼はとても嬉しそうに笑って牢の中へ入ってきた。
この隙に逃げようなんて愚かな考えは頭の中で打ち消す。ここから脱出することは難しいだろうし、逃げたところで身を寄せられるところもないのだから。

武田さんや真田さんは私がいきなりいなくなってしまったことに怒っているだろう。…いやもしかしたら呆れているかもしれない。
信用してもらって住まわせてもらったのに急に消えるなんて、恩知らずなことをしてしまったと自分でも思う。
それに猿飛さんからの疑いが強くなってしまっただろう。本当に間者だったのかなって思ってると考えていい。
だから彼らの元へ行くわけにもいかない。


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