leprotto

■ 高鳴る鼓動



「和泉さん!」
「沢田、さん…」

山本武の家から引き返す途中、沢田綱吉が和泉を呼び止めた。驚き振り返る和泉の後ろで沢田綱吉は肩を上下させている。
名前を呼ぶと、彼はやっと顔を上げて和泉を見た。


「あ、あの……打ち上げ、出て行きませんか?」
「私が行っても、きっとお邪魔になりますから…指輪を受け取るのにアルコバレーノに用事があっただけだったので気にしないでください。」
「そ……そうですか…」
「お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます。」

和泉が笑顔を向けると、沢田綱吉はかあっと赤面してしまう。驚いた和泉は彼に近づいて額に手を置いた。


「大丈夫ですか?」
「え、あ、う、はい……!」
「顔が真っ赤…。気を付けてくださいね、この時期は季節の変わり目ですし……」
「え…?は、はい…。」
「では、私はこれで……。」
「あ、ま、待って!」

そのまま踵を返すと、沢田綱吉が和泉を引き止める。
首を傾げつつ振り返った和泉に、沢田綱吉が慌て始めてしまった。

一体どうしたのだろう。
何か用事があったんじゃないのだろうか?



「あ、あの……戦ってもらっちゃってありがとうございました!」
「え…?」

拍子抜けしてしまった。お礼を言うために彼は自分を引き止めたのか。
どんなことを言われるのかと身構えていた和泉はきょとりと一回、瞬きをしてしまった。

「危険な戦いだったと思います。だから……」
「気にしないでください。私、あの時のあなたの返答次第ではあの場に立ちませんでしたから。」
「え……」
「騙すような真似をしました。お礼を言われるようなことは、していません。」
「和泉さん、雪の守護者になっちゃったんですよ?」
「そうですね。」

彼の慌てぶりのお陰で、和泉は冷静になれる。
それに少し苦笑しつつも、和泉は頷いた。


「嫌いなマフィアの、守護者になっちゃったんですよ。」
「でも私、あなたは嫌いじゃないです。」
「これからたくさん、辛いことありますよ?」
「それでもきっと大丈夫。それを回避するのが、雪の守護者の役目でしょう?」
「でも……」

微笑むと、彼は困った顔で眉を寄せる。心配、してくれているのだろう。


「……ううん。俺、信じます。和泉さんのこと!」
にっこりと安心するような優しい笑顔が向けられた。
心に落ちた暖かさは一体何だったのだろう。頬が熱くなり、和泉の鼓動は早まる。




「ありがとう……綱吉、くん…」

初めて、小さく彼の名前を呼んだ。
どきどきの正体には、気付かないふりをして。





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