leprotto

■ 響く声

「……っ…!」

刀を振り切った山本は目の前に倒れる少女を見、そして呆然としていた。
颯爽と現れて、戦いを挑んできた少女。針の先のような鋭い殺気とは裏腹に、彼女の瞳が寂しそうだったのは山本の思い違いではないだろう。


「山本っ! だ、大丈夫だった?」
「どうした、山本。」
「…小僧、この子……」
駆け寄って来てくれた綱吉の顔は真っ青だったが、倒れている少女を見て眉を寄せた。彼の後ろから小さな赤ん坊が歩いて来ていた。
異変に感づいてくれたらしい赤ん坊が問いかける。それに返答しようとした山本の脳裏には、先程の光景が焼き付いていた。



―――さよなら…。

小さく聞こえた彼女の声。虚空を見つめてそう言った少女――和泉は、やろうと思えば山本の斬撃を容易く避けられたはずだ。なのに彼女はゆっくりと目を閉じ、首から下げていた赤い十字架を握って小さく六道骸の名前を呼んだのだった。


「俺の攻撃を……わざと喰らった…」
「ええっ!? わ、わざと?」
「そーみてーだな。」
「そんな……あ、でも…この子……」
思い当たる節があったのか、綱吉は悲しげに和泉を見て眉を寄せる。


「悲しそうな……顔、してた…」
「十代目…」
「雪宮のヤツ……骸に絶対服従してるのかと思ったが…こいつにも事情がありそうだな。」
獄寺が綱吉を呼んだ。赤ん坊もじっと和泉を見つめる。








「……悲しそう、ですか。」
それを、木陰で見ている人物がいた。赤と青の双眸を持つ、端正な顔付きの少年。彼こそが、六道骸本人だった。


(君たちに、彼女の…僕たちの何が分かるというのですか。)

美しい顔を歪めて、骸は笑う。
明るく平穏な場所でのうのうと生きてきた一般人に、暗く陰鬱とした場所で塵芥のように扱われてきた自分たちの境遇が理解できるはずがない。

ボンゴレ一行の中で唯一の女性である毒サソリが和泉の前に立って、両手に料理を構えた。おそらく、とどめを刺すつもりなのだろう。



「全く……いけない子ですね、和泉。」

倒れている和泉にちらりと視線を向け、骸は星の王子を動かして物音を立てた。
どよめくボンゴレたちに笑いを隠すことが出来ない。

ボンゴレの気配が自分のいる方向に向かってくるのに頬を緩め、骸はそちらに向かって歩き出す。
星の王子はここで放置しても、いずれ戻ってくる。問題はない。



「…あ、き……君は!?」
「……おや?」

茶髪の少年――ボンゴレ十代目沢田綱吉に遭遇した骸の、笑顔の仮面は剥がれない。

 


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