leprotto

■ 澄ます耳


雲の守護者の使命とは、何ものにもとらわれることなく独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮き雲。


「ゆえに最も過酷なフィールドを用意しました。」
チェルベッロが淡々と説明を始めた。それを離れた場所で聞いていた和泉は、じっと雲雀恭弥を見る。



彼が現れた時既に、獄寺隼人、山本武、笹川了平の三人が到着していた。
応援に来たというその三人になんの群れかと問いかけ、目障りだと言い放った彼は目の前に着地したゴーラ・モスカを一瞥し、こう言ったのだ。
「あれを、咬み殺せばいいんだ。」


彼は得物を構え、ぞっとするほど綺麗な笑みで相手――ゴーラ・モスカを見据えた。



「ファイッ、オーッ!!」

下では先の三人が円陣を組んで雲雀恭弥の名前を叫んでいる。
呼ばれた彼はそれに振り向くこともせず、ただ目の前の“咬み殺す相手”を見ていた。


「それでは始めます。」
「雲のリング…ゴーラ・モスカVS雲雀恭弥、勝負開始!」
チェルベッロのコールと同時にゴーラ・モスカは爆発的に何かを噴射して、雲雀恭弥に突っ込んでいく。
飛んだままゴーラ・モスカは指に装填してある銃弾を繰り出した。

しかし予想していたのか、はたまた見切っていたのか、雲雀恭弥は和泉との対戦の際にも見せた素早い身のこなしでそれを避け、得物を一閃する。


人体の骨が折れた時のような音が響き渡り、ゴーラ・モスカの腕が破壊された。
それはまさに一瞬の出来事で、その場にいた全員がぽかんと口を開けて彼を見る。

そんなことお構いなしに、雲雀恭弥はゴーラ・モスカが落とした半分の指輪を拾い上げて自分のものと合わせた。
これにはさすがにヴァリアーの面々も驚いたらしく、笑みを崩さなかった嵐の守護者までもぽっかりと口を開いている。



「これ、いらない。」
「へ?……あの…」
雲の指輪はあっという間に出来上がり、彼はせっかく合わせたその指輪をチェルベッロに渡してしまった。
指輪を受け取ったチェルベッロは戸惑いを隠せないのか、焦った様子で雲雀恭弥を見る。

そんな彼女たちも眼中にないのか、彼は一点を見つめたまま動かない。


「さあ、降りておいでよ。そこの座ってる君。」

そこまでで一旦言葉を切った雲雀恭弥は、くすりと挑発的に笑った。


その様は妖艶だった。
本来妖艶とは女性に使う言葉らしいが、今の和泉にはその言葉以外思いつかなかった。


風に靡く黒髪はさらさらと美しく、切れ長の目には強い闘志と殺気が溢れている。
月を描く唇は薄く、その下から覗くのは鋭い犬歯。

首筋に噛みつかれた時のことを思い出してしまい、和泉は彼を直視出来なくなった。



「サル山のボス猿を咬み殺さないと、帰れないな。」

強者とは美しいものなのだろうか。
骸も、沢田綱吉も、そして今、目の前にいる彼も。


雲雀恭弥のその発言を聞いたXANXUSは、にやりと不吉な笑みを浮かべて飛び上がった。


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