leprotto

■ 蘇る記憶


「ここは……。」

和泉が目を開けると、そこは見渡す限りの草原だった。
そよそよと涼しい風が吹き、和泉の髪を揺らしていく。

『和泉、』

聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこには和泉の君主である骸が立っていた。


「骸様……。」
『お久しぶりです、和泉。』
「はい。……骸様、大変失礼ですがご無事でしょうか…?」
『和泉……?』
「和泉はそればかりが心配です……。」

和泉のその質問に、骸が首を傾げる。なぜそんなことを聞くのか分からないようだ。
しかし和泉の潤んだ橙を見て、満足そうに微笑んだ。



『…ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます、和泉。』
「よかった……。」

ほ、と息をつく和泉を骸は優しく抱き締める。驚いて体を硬くする和泉の髪を一筋手に取り、口元まで持っていった。


『時に和泉、』
「はい…?」
唇を落とされた髪は丁寧に元の場所まで戻される。
呼ばれて顔を上げると、骸はそっと和泉の髪を撫でた。



『僕はしばらく表に出てこれなくなりました。』
「え……!?」
『犬と千種から話は聞いているでしょう?あの後僕の体は最下層へ、今では光も音も全く届きません。』

驚愕のあまりに声が出ない和泉に、骸は優しく微笑みかける。
また和泉を抱き締めて、肩に顔を埋めた。


「では……私たちはどうしたら…。」
『もう一人の僕を探しなさい。』

「もう一人の…骸様……?」

骸の言ったことを口の中で反芻すると、骸は和泉の首筋に高い鼻をくっつける。
冷たい肌の感触に和泉は思わずぴくりと動いたが骸は気にしていないようだった。



『千種と犬には伝えられませんでしたが、その子はとても寂しい子です。この日本にいながら、僕たちと同じような寂しい思いをしています。』
「……。」
骸の声もなんだか寂しそうで、和泉は思わず彼の背中に腕を回す。
撫でながら、続きに耳を傾けた。


『あなたは、何があってもその子を助けてあげてください。』
「わかりました。努力します。」
『いい子ですね、和泉。』

頭を撫でられて思わず目を閉じる。骸が笑った気がした。

そのまま和泉の意識は遠退いていく。




『あの子の――“ ”の友人になってあげてください……頼みましたよ、和泉。』

それが、あなたのためにもなるのだから。

最後に、骸の声を聞きながら和泉の意識は浮上していった。


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