leprotto

■ 駆ける足

「骸様、ご無事ですか…?」
「先程手を出さないように、と伝えたつもりだったのですが?」
「っ、申し訳ありません。」

冷たい目をで和泉を見る骸。
その冷ややかな視線にざわりと背筋がざわめく。



「……まあ、いいでしょう。」

興味を失ったのか、骸は端正な顔に微笑みを浮かべて入って来た二人に視線を向けた。
その瞳は獰猛な動物の目よりも、もっと、ずっと怖い。


「おやおや…これは外野がぞろぞろと。千種は一体何をしているのでしょうかねぇ……」
「メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良くのびてるぜ。」

鼻で笑った獄寺隼人の発言に、和泉は全身の血の気が引いていくような感覚に陥った。
ぐらりと視界が動き、よろめいた和泉は壁に手をついて体を支える。


(千種……犬…!)

唇を噛んで、なんとか平静を保った。しかし頭の中は情報と感情が氾濫している。

和泉の頭の中では、獄寺隼人の口から出た二人が幼い姿でただただ笑っている情景だけが繰り返し再生されていた。


「……。」

その様子に気付いた雲雀が眉を寄せて和泉を見たが、和泉は気付かない。



「…なるほど。」

小さく溜め息をついた骸は、トンファーを拾い上げた雲雀に殺気を送る。
和泉が分かるわけもないが、彼の頭を占めていたのは和泉の首筋に咲いた赤い華と痛々しい噛み跡だ。

「……覚悟はいいかい?」
「クフフ…。」

骸がこちらに目配せする。つまり、この男と戦えということだ。
所詮、自分は骸の駒。駒というのは使い捨てのものだ。

悲しくも、彼のために散らなければいけない。千種と犬が、ランチアがそうだったように。



「出来ますね、僕の和泉…」
「はい。骸様の、お言葉のままに……。」

針を持って雲雀に向かい、威嚇程度に殺気を送る。彼は殺気を向けられているにも関わらず、嬉しそうに微笑んだ。


「すごく楽しみにしていたよ。君と闘るのをね。」
「……こうなった以上、全力でお相手いたします。」

自然と眉が寄っていく。どうしてこんなにも彼は自分と戦いたがるのか。
自分よりも骸の方が強いことは、一見して分かるだろう。彼なりに戦いたい相手の基準でもいるのだろうか。


「雪宮和泉、参ります。」

小さく呟いて、和泉は走り出した。
 

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