言葉巧みに騙してダーリン



▽パロ/ホストと社会人。



 言葉と云うものはなんて軽い物なのだろうか。口から出る沢山の嘘。真実なんてこれっぽっちもありゃしない。飛びっきりの笑顔で「愛してる」なんて言ってやれば、女性はすぐに俺に落ちて大枚を叩いてくれる。ああ、なんて安っぽい台詞。安っぽい仕事。それでも俺は、ホストを辞めれない。嘘吐きな俺にはホストが似合っているんだ。
 そう言えば、誰かが言っていた。「言葉はなんて重たいものか」って。言葉が重い? 一体全体どうしてそうなったんだ。何処が重いのか教えてくれよ。嘘で出来上がった世界にいる俺には到底分かりはしないんだろうけれど。それならあれだ、あれ。ええっと、そうそう時間の無駄ってやつ。別に知りたくも無いかな。
 今日も今日とて仕事な俺は、歌舞伎町の一角にある店で次から次へと訪れる客の相手をしている。キャバ嬢顔負けの露出が激しい服に身を包む女性も居るし、金持ちのお嬢様ですよってアピールするかの如くブランド物の清楚な服を纏っている女性だって居る。まあ何を着ようが、着飾ろうが俺にはただの雌豚にしか見えないんだけれど。あはは、だから無駄だよ、キミタチ。グラスに注がれた赤ワインを飲み干して、背景に薔薇が舞うような笑みを浮かべてお褒めの言葉を女性の耳元で囁く。綺麗だね、まるで宝石のような美しさだ。虚言とも知らずに女性は上機嫌になってボーイを呼ぶ。ドンペリ一本、入りました、御馳走様。今日も俺は絶好調。


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 仕事が終わり、アルコールが入っているせいで覚束無い足取りで自宅マンションへ向かう。今日は何時もより一時間早いから、彼は未だ眠っているのだろう。二人で眠れるようにって言って俺が買ったキングサイズのベッドを一人で陣取って、真っ白なシーツにその細くて透き通るような色をした体を包んでいるんだろう。あ、なんかムラッてした。
 只今、と一応声を掛けて部屋に上がる。太陽が未だ地平線から出てきていないから部屋の中は暗い。足元の灯りだけ点けて寝室へ向かう。ああ、ほら、やっぱりね。想像した通り彼は眠っている。すやすやすやすや気持ち良さそう。本当は快適な眠りを邪魔したくないんだけれど、ダーリンが帰ってきたらお相手するのがハニーの役目だろう? 近くまで行って、さらさらと流れる髪にキスを一つ。更に下りて額に一つ。右瞼に一つ。眼帯で覆われた左瞼にも一つ。鼻のてっぺんに一つ。唇に、というところで平手打ちが俺の頭に炸裂した。先程まで眠っていたとは思えない力強さ。頭がぐわんぐわんってなったじゃない。

「痛。いきなり叩くなんて酷いなあ、マイハニーは」
「気色わりィ」
「わっ、それが今までお仕事頑張ってきたダーリンにかける言葉?!」
「だから気色わりィって言ってんだろうが。止めろ、金時」
「はいはい。只今、晋ちゃん」
「お帰り。んじゃあ俺はまた寝る」

 ああああああ、酷い! このままあはん、うふんに持ち込もうと思ったのに晋ちゃんってば冷たい。まあこの後仕事の彼にあまり無理はさせたくないからキスで我慢。唇には……させてくれないかな、やっぱり。まあ、仕事の後に口付けはあんまりしたくないから良いんだけれど。だってさ、さっきまで客に虚言を吐き出していた唇で大好きな大好きな晋ちゃんの唇を塞ぎたくないよね。綺麗な唇が汚れちまう気がするんだ。だから唇へのキスは風呂に入って歯を磨いてから。これは何年経っても変わらない俺の決めたルール。嗚呼、でも此れだけは先に言っておかなくちゃ。

「今日も愛しているよ、晋助」

 嘘だけどね!





嘘か、真か。さあどっち?



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