The postcard to which the stamp is not pasted doesn't reach you.


▽原作。銀←高風味。



 しんしんと真っ白い雪が降った二月のとある日。また子から受け取った便箋に俺は筆を走らせた。


 『拝啓、暦の上に春は立ちながら、厳しい寒さが続いておりますが坂田様はお変わり無くお暮らしの事と思います。私も相も変わらず無事に過ごしております。日頃はご無沙汰を重ねまして誠に申し訳御座いません。
 さて、普段からあまり筆を取らない私ですが、外に降り積もる真っ白な雪を眺めていると何故だか貴方を思い出してしまい、このような手紙を書く事に致しました。手紙と云えば覚えているでしょうか。あの幼き頃の事を。文字を習ったばかりの頃を。傍に居るのだから声に出せば良いものを、わざわざ紙に書き起こして交換しておりましたね。坂田様の文字は個性があって読みにくかったものの、貰う度に嬉しくて、嬉しくて、胸が張り裂けそうでした。貴方は気付いていなかったのでしょうけれど、私はあの頃から恋焦がれていたのです。恥ずかしい話ですが戴いたお手紙は今でも大切に手元に残しているのですよ。此れは、貴方と私の秘密にしておいてください。
 嗚呼、空から降る雪が一層多くなってきました。そちらは降っているのでしょうか。江戸と京は距離もありますし、気候も少し違います。故に江戸では雪は降らず、只冷たい風が吹いているだけかもしれませんね。願わくば貴方と此の降り続ける雪を眺めていたいのですが、時間と世の中が許してくれそうにありません。ですから、どうか、どうかこの雪が降り続いている間だけ、貴方との思い出に浸らせて下さいまし。甘ったれるな、とお怒りになられるでしょうか。きっと怒るのでしょうね』


 げほっ、げほっ。

 手に持っていた筆がからん、と音を立てて落ちる。折角書いた手紙が墨で汚れてしまったではないか。

 げほっ、げほっ、ぜえ。

 口から漏れた血が掌から零れ落ち、じわりと紙を汚す。
 真っ赤な俺の血。なんて汚いのだろう。同じ赤ならば銀時の瞳の色が良い。
 震える手で、再び筆を持つ。冷えた空気に当たりすぎたのか。力が、入らない。それでも終いまで書かなくてはならないのだ。書かなくては、書かなくては。


 『そろそろお時間のようです。私も疲れてしまいました。まだまだ書きたい事は山ほどあるのですが、此の辺りで失礼させて頂きたいと思います。
 三寒四温の時節柄、どうぞご自愛専一にてますますのご活躍をお祈り申し上げます。   敬具

 二月某日
      高杉 晋助
 坂田 銀時様』


 外は雪。
 真っ白な便箋には墨の黒と、俺の血の赤。
 まるでお前のようだ、銀時。
 果たして、此の手紙がお前の手元に渡る時は来るのだろうか。来たとしても、俺は生きているのだろうか。

 嗚呼、雪が、降っている。






切手が貼られていない手紙はあなたに届かない。



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