▽銀高。習作01設定。



 AM.08:00
 ジリリリリ、と耳障りな目覚まし時計の音が部屋いっぱいに響き渡る午前八時。まだ寝ていたい、と考えていても無機物のそれは設定された時間に俺を起こそうと容赦なく音を響かせるのだ。昨夜の情事のせいで軋む体をどうにか動かして鳴り止まぬ目覚まし時計のスイッチを切る。静寂。静寂。静寂。先程までのあの五月蝿さは何処に行ってしまったのだろう。

「寂しい」

 口から溢れる音。一人の部屋はこんなに寂しかったか。何時もの事なのに。一人の朝なんか、もう慣れっこの筈だと言うのに。
 きっと、珍しく設定してスイッチをONにしていた目覚まし時計が煩さと一緒に寂しさを引き連れて来たのだろう。俺が音を切ってしまったから、寂しさだけが残ってしまった。何でそれまで持って行ってくれなかったんだ。目覚ましをかけなければ、何時もの朝を迎えられたのに。

「……ん?」

 そこでふと疑問に思う。目覚まし時計なんて此処数ヶ月使っていない。なのに、何故今日は鳴ったのだ。おかしい。俺は昨日……目覚ましに触っていないのに、何故鳴った? 記憶違いなのだろうか。
 まあ鳴ってしまったものは仕方が無い。きっと俺が知らず知らずの内にかけていたのだ。そう気にする事じゃない。
 取り敢えず起きる為に体を起こす。ぎしり、とベッドのスプリングと俺の体が軋んだ。風呂に入りたい。一応銀時が体を清めてから出ていったから綺麗なのだろう。しかし、何となく風呂に入りたい気分なのだ。近くに畳んである服を掴んで、上半身だけ裸のままリビングへと向かう。そこでまた違和感。テレビの音が聞こえる。つけた覚えの無い、テレビの音が。更にこんがりと美味しそうに焼けたトーストの香りもするのだ。俺しか居ない筈の家から、する筈も無い香りと音。
 もしかして。
 もしかすると。
 服を持っていない方の手でドアノブを握る。がちゃり、という音と共に扉が開いた。
 もしかして。
 もしかすると。

「あ、お早う。晋ちゃん」

 にこりと笑う銀八の姿が目に映る。そんな、まさか。こいつは帰った筈なのに。動揺していると、見慣れた銀色がこちらに向かって歩いてくる。一歩、また一歩。後少し。一歩、一歩、一歩、ぴたり。

「目覚ましで起きれたんだね。偉い、偉い」

 不可解な音や匂いの犯人は――。



君がいる朝。


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