▽原作。江戸。



 情事後特有の雰囲気と匂いが漂う万事屋の一室。シングルサイズの布団が一式敷かれ、その上には窮屈そうに体を寄せあっている男が二人。
 万事屋銀ちゃんこと坂田銀時と鬼兵隊総督こと高杉晋助は恋仲である。しかし、この事は未だ誰にも公言した事はない。高杉が指名手配のテロリストである事も関係はしているのだが、一番の問題は男同士という事だ。今のご時世、何と言われるか分かったもんじゃない。故に秘密の関係。故に逢瀬の時も少なく短い。
 今宵もそうであった。もそり、と高杉が体を起こし清めたばかりの真っ白な体に何時もの絢爛豪華な着物を纏っていく。この男には女物も似合うな、と銀時は思う。シンプルな男性物も良いが、ごちゃごちゃと沢山の模様が入った物も映えそうだ、と。
 着付けが終わったのか、高杉は黙ったまま刀を腰に差し玄関へと向かう。言葉は交わさない。これが二人の別れ方なのだ。次何時会えるの? も、行ってらっしゃい、も無い静かな別れ。言っても無駄だと分かっている。お互い忙しい身。約束なんて守れるかどうかも分からないのだから。只、ふらりとやって来た高杉と体を重ねて、唇に触れて、そして無言で見送る。それで充分だ。他はいらない。言葉なんて無くとも、分かっているのだ。
 玄関の開く音の後にぴしゃり、と閉まる音が続いた。そして部屋はまた何時もの静けさを取り戻すのだ。一筋の、煙管の香りだけ残して。



言葉なき別れ


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