▽金魂。



 毎日毎日俺は愛を囁く。相手がオバサンだろうと人妻だろうと関係が無い。ただただ求められるがままに愛の言葉を囁き、必要があれば抱いた。それがホストとしての俺の使命。食って生き永らえるには必要な事だった。
 此れだけ愛だの何だのと言っているが、俺は本当の恋とやらを経験した事が無い。可笑しな話だ。毎日「愛してる」等甘ったるい言葉を吐いているくせに恋を、した事が無いなんて。一度俺のお得意様に恋とはどんなものか聞いたことがある。

『こう、心臓がきゅうってなるの。その人を見ると胸が高鳴って、体が熱くなって……会うだけで嬉しくなるのよ』

 馬鹿馬鹿しいと思った。そんな現象がこの肉体に起こると言うのだろうか。単に心臓の病気にかかったとか、気のせいとか……兎に角、俺は信じられなかった。
 恋はしなくても良い。しなくたってこうして生きていられるのだから。そう思っていた。君に会うあの日までは。


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 出会いは本当に偶然で。その日は何時もより酒のペースが早くて帰る頃にはべろんべろんに酔っ払っていた。タクシーを呼びましょうか、とケツ顎が心配してくれたが、何故か歩いて帰りたくて断った。今思えば、煽るように酒を飲んだ事もタクシーを断って歩いて帰った事も、君に会う為に神様が俺の体を動かしてくれていたからかもしれない。ふらふらと歩いている途中、吐き気が襲ってきた。流石に大通りで吐けないと思った俺は路地裏に入り吐いた。漂うアルコールと胃液の匂い。口の中が酸っぱくて気持ち悪い。早く洗い流したい。ああ、でも家まで遠い。取り敢えず水が欲しいな。

「……み、ず」

 そう呟いた時(とは言っても掠れていて音になっていなかった気がする)目の前にミネラルウォーターのペットボトルが差し出された。おかしい。最近のペットボトルは自分の意思で動けるのか。まあそんな事はどうでも良い。口を濯がねば。
 ふらふらの体を動かしてペットボトルを手に取り蓋を開け、口いっぱいに含んで吐き捨てた。何回かそれを繰り返せば口のなかの酸味が消えたのが分かる。最後に残った水を全て飲み干して、俺は漸く落ち着いた。

「落ち着いたか? 酔いどれホストさんよぉ」

 ハスキーな声がする。はて、人なんて近くに居ただろうか。恐る恐る顔をあげると、其所には綺麗な顔をした男が立っている。そう、こいつが俺の運命の人になるなんてこの時は思っていなかったのだ。


君のことが大好きだと
言ってもいいだろうか


※後々短編か長編で書き直します。



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