▽江戸。



 きんきんと体を突き刺すような冷たい空気が嫌いだ。故に冬も嫌いだった。何故この世に四季というものがあり、冬というものがあるのか俺には分からない。何故秋の次は冬なのだろう。春でも良かったんじゃねえか。
 一層冷たい風が体を撫でていき、ぶるり、と体を震わせる。嗚呼、寒い。京が死ぬほど寒かったから逃げるように江戸にやってきたが、此方もあまり変わらない。何処に行けば暖かい風が吹いているのか。誰か、俺に教えてくれ。
 この寒さと夜中という時間帯もあってか、人っ子一人いやしねえ。餓鬼は布団に入って夢の中、大人は暖房のついた部屋でぬくぬくと暖まっているのだろう。腹が立つ。俺はこんなに寒い思いをしているのに。

「さみぃ」

 ぽつりと言葉を溢すが寒さは相も変わらずで。白くなった息だけが空へと昇っていった。寒い、寒い、寒い。このままじゃ凍死しかねねえ。何処か暖かい場所、と探してみるがこの時間何処の宿も店も閉まっている。
 思わず悪態を吐きそうになった時、後ろからざりざりと靴が砂利に擦れる音がした。

「あれえ? どっかの指名手配されてるテロリストさんじゃありませんか」
「っ」

 刀を握り締めて振り替えると、そこには冷たそうな銀色。

「銀、時」
「何やってるの?」
「別にい? 散歩だ」

 刀から手を離して奴の問い掛けに答える。寧ろこいつの方が何をやっているんだ。こんな時間に。

「散歩……ねえ。この寒空の下、そんな薄着で散歩する奴なんて晋ちゃん位でしょうよ」

 じゃりじゃりと先程と同じ音を立てて銀時が近づいて来る。片手にはコンビニの袋。嗚呼、またこいつは甘味ばかり買って。

「寒くねえ」
「嘘。晋ちゃん寒いの苦手じゃない」
「…………」
「仕方ないなあ」

 ぽふりと首に何かが掛けられる。そのまま銀時はぐるぐると俺の首にそいつを巻き付けるように手を動かす。よく見てみると赤いマフラーが俺の首にあった。

「首ぐらい暖かくしてたらちょっとは違うよ」

 ほら、行こう、と手を握られてそのままぐいぐいと引っ張られる。多分、あの家に連れて行かれるのだろう。
 繋がれた手からほんのりと暖かさが伝わる。嗚呼、これなら冬も悪くねえかもしれない。


ひやり、ひやり


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