遠慮しがちな想い人



※夜昼別体。夜独白。



 元々は同じ体を妖怪の人格であるオレと、人間の人格である昼がお互いの動ける時間帯に使うという生活をしていた。しかし、それでは色々と不便であろう、という事で神通力を持った妖怪達が協力してくれ晴れてオレ達は別々の体を持ったって訳だ。こうしちまえば三代目としての仕事も幾分かやり易くなる。昼が頭脳でオレが刃。戦いの最前線に出るのはオレになるのだから、同じ体だった頃とは違い昼の体が傷つく事も無い。あいつには指一本、髪一筋だって触れさせやしない。綺麗なままで居てほしい。そう心に決めて、オレはあいつを守ってきた。
 さて、それは今この場所ではどうでも良い事だ。“三代目”としては上手くやっていけているのだから。それよりももう一つの事でオレは頭を抱えていた。昼のように脳で考えるよりも真っ先に体の方が動いちまうオレがこんなにも脳を使ったのは初めてなんじゃないだろうか。そろそろ爆発しちまわねえか心配だ。……此処からは、オレが今悩んでいる事を話そう。暫しの間付き合ってくれ。
 昼は母である若菜や祖母に似て遠慮がちなところが多々ある。控え目と言ったら控え目なのだろう。多分、つつましい女性ってあいつのような人物の事を言うんだろう。(まあ、あいつは男だからつつましい男性になるが)故に言葉や態度がいつも人より一歩下がった辺りから言っているような感じである。とは言っても“三代目”としてはちゃんと自分の意見を前に出してくるから側近や爺は何も言ってこない。“三代目”としてやれているのなら、普段の行動や発言の一つや二つどうってことない、という訳なのだろう。しかし、“三代目”の片割れでもあり、“恋人”としての片割れでもあるオレにとっては大問題なのだ。何もかもが控え目なあいつは恋愛沙汰も同様に遠慮しがちである。夜間にオレが出入りに出かけて帰ってきた後の宴に参加せずに、真っ先に昼の元へ向かっても、学校から帰ってきたあいつの傍に居ようとしても、君は疲れてるでしょ? わざわざボクに気を遣わなくても良いんだよ、と一蹴されてしまい、オレは渋々体を休める体勢に入るはめになる。確かに疲れている時も何度かあった。しかし、昼と一緒に居れば自然と疲れも吹き飛ぶから無理なんかしてねえし、あいつに気を遣っている訳でもない。ただ恋人らしい事をしたいのだ。折角分かれた体。今まで夢現の世界での逢瀬しか無かったオレ達がお互いに現に存在出来る様になって、でえととやらも可能になった。――今まで出来なかった分を取り返したいと思うのだ。本来ならば分かれる事のない体が分かれただけでも幸せだろうが、と言われるかもしれない。だが、オレは貪欲な人物だ。一つ手に入れれば、次が欲しくなる。次も、更にその次も。オレはもっともっと昼を幸せにしてやりてえ。楽しませてやりてえ。だから、必死に脳をフル回転させて遠慮がちな想い人にどうやって攻めていくかを考えているのだ。

「……まあ、今はこのままでも良いんだけどな」

 慎ましいあいつは嫌いじゃない。恥じらいをもってて可愛いと思う。それに、未だ時間はたっぷりある。何時か、あの遠慮しがちな昼が積極的にオレに甘えてくれるようにしてみせるさ。







シクラメンの花言葉「遠慮がち」 11月拍手御礼文。



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