※夜と昼が幼馴染みでクラスメイトだったら、なお話。



「よし、席替えを始めるぞ」

 席替えと言うものは生徒にとっては一大イベントであるが、担任からするとそうでも無いのだろう。先程から面倒くさそうに番号の紙が入った箱を揺らしながら担任が一人一人の席を回り出す。
 今年度最後の席替え。
 それは俺にとって人生最大の(席替えの紙との)戦いなのだから。
 幼馴染みの昼と同じクラスになって早一年。何度も何度も席替えをしてきたというのに、未だに俺は昼の隣になった事がない。それどころか近い席になった事もなく、いつも遠くからあいつを見るだけだった。だから、俺はこの戦いに勝つしかない。勝って昼の隣を……!!

「……良、奴良!」
「へ?」

 突然誰かに呼ばれて顔を上げれば、目の前には‘席替え用’と書かれた箱とそれを俺に突き出す担任の顔。

「へ? じゃない。早く引かんか」
「お、おう」

 昼の隣になれますように、と願掛けをしながら一枚の紙切れを引き抜く。小さく四つに畳まれたそれをそっと開くと‘27’という数字が表記されているのが見えた。

「27……か。昼は何番なんだ?」

 ちらりと前列の方に座っている彼に視線を向けると丁度くじを引いた後のようで、周りの友人らと何番だったのかを言い合っていた。
 嗚呼俺もそこに混ざりてえ、なんて思いながら席の並びが書かれた黒板に視線を移す。まだ席の番号は書かれていない。番号はくじを全部引き終えてから担任が適当に記入していく、というのがこのクラスの席替えのシステムだ。だから、昼が‘26’や‘28’だったとしても、隣になる確率は低い。

「怖ぇ……」

 こんなに緊張することが十何年生きてきた中であっただろうか。爺の百鬼夜行に着いて行った時でさえなかった気がする。

「よし、番号入れるからな。入れ終わったら一斉に席を移動しろ」

 とうとう運命の時が訪れた。どきどきと高鳴る心臓が煩い。コツコツと音を立てながら白いチョークがひとつひとつ数字となって黒板に浮かぶ。

(27……27……一番後ろの、窓際か)

 俺が引いた番号は窓際の最後尾。日当たりは最高だし、居眠りしてもあまり見つからないという事で人気の席なんだが、今の俺にとっては微妙な席だった。何せ横には窓があるため隣はたった一つ。昼の隣になれる確率はぐぐっと下がってしまった。

(うぅ……もう駄目か?)

 取り敢えず机の中の教科書(置き勉の為かなりの量がある)や横のバッグを持って席を移動する事にしよう。さっさと荷物を整理して今年度最後の席に移った。
 席に着いて皆が移動するのを眺めていると、一人の少年がこちらに向かって歩いてきた。その人物は紛れも無く俺が隣になりたいと願う昼だった。

(――昼!!)
「夜、其処?」
「お、おう! 昼は?」
「ボクは此処。ふふっ、隣だね」

(よっしゃああああ!)

 ぐっと心の中でガッツポーズを作って、思いっきり良い笑顔を浮かべる。とうとう念願の昼の隣を手に入れる事ができた。これを祝わずにはいられない。今日の夕飯は赤飯だ! (お袋に連絡しねえと)

「もうこのクラスとも後一か月でお別れだけど、宜しく」

 にこっと微笑んでくれる昼に「こちらこそ」と言って彼が座るのを待つ。幾らかの荷物を机の中に入れてから昼は席に着いた。こ、これが昼の隣という幸せか! 横に顔を向けるとこちらに気付いた昼がまた女なのでは、と錯覚する位可愛らしい笑顔を見せてくれた。

(し、幸せだ……)

 果たして一か月、俺は平常でいられるのだろうか……。隣になったらなったで新たな悩みが増えた俺なのであった。










隣どおし






君の横顔を見ていたい。



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