月見をしよう




※夜昼双子設定。鯉伴存命。拍手御礼第一弾、テーマ:月




 ぱたぱたと駆け足の音が先刻まで静かだった屋敷に響き渡る。その音で目を覚ました鯉伴がゆっくりと身体を起こし、壁に掛けてある時計を見上げた。時計の針は丁度四時を指している。どうやら我が子が学校から帰ってきたようだ。二人の息子の内、一人は人間の血が濃い為、夜に行動する鯉伴やもう片方の息子とは違い、昼に行動している。だから、“昼”は人間の学校に通っているのだ。通いだした当初は四分の一とは言え、妖の血が流れている息子が人間の学校なんかに通って苛められたりしないかと心配していたのだが、どうやら上手くやっているようだ。
 学校という子供の務めを終わらせてきた昼を激励してやろうと立ち上がり、障子戸を開けようとする前に、すぱん、と勢いよく戸が開かれ、きらきらと輝く茶色い瞳をした少年が部屋の中に入ってきた。その背に黒いランドセルが背負われているところを見ると、自室には未だ戻っていないのだろう。いつもならば、双子の弟が眠っている自室に一番先に向かうのだが、どうやら今日は違ったようだ。珍しい事もあるもんだ、と思っていると昼が鯉伴に向けてにこり、と笑みを浮かべた。


「おとうさん、今日は“ちゅうしゅうのめいげつ”なんだよ! おつきみしよう、お団子つくろう」


 父親である鯉伴に対して“ただいま”も“おはよう”も無く、昼は眩しい笑顔で月見を提案したのだった。





 それからの数時間、屋敷の中は慌ただしさに包まれていた。学校でお月見の知識を身につけてきた昼が、芒が必要だの、団子を作らないといけないだの、と次々と家中の妖怪に要求するものだから準備が全て整った頃には、皆疲れ果ててあちこちにぐったりと倒れていたのだった。一方、満足と言わんばかりの笑みを浮かべている昼といつの間にか起きて来ていたもう片方の息子……“夜”は、出来上がった団子を持っていそいそと濡れ縁へと向かっている。妖怪の血の方が濃い夜は学校に行っていない。だから今日が何の日なのか知らないのだろう。きょとん、としたまま昼の後に続いている。夜は何時もこうなのだ。昼がやるのならば自分もやるべきなのだ、と考えているらしい。
 濡れ縁まで辿り着いた二人は団子の乗った皿を置き、ちょこんとその場に座った。それからすぐに、おとうさーん、おかあさーん、と鯉伴と若菜を呼ぶ。どうやら二人が来るのを待ちきれないようだ。鯉伴はくすくす笑いながら台所へと行き、そこで後片付けや飲み物を用意していた若菜を呼ぶ。若菜もつられて笑いながらお酒とジュースを乗せた盆を手に二人で息子達の元へと足を向けた。


「あ、やっときた。遅いよ」
「……遅いぞ、おやじ、おふくろ」


 濡れ縁に着くと、頬を膨らませた昼と無表情のまま昼にべったりとくっついている夜に出迎えられる。そんな二人の横に置いてある積み上げられていた団子が幾つか減っているように見えるのは鯉伴達の気のせいなのだろう。夜の口がもぐもぐと何かを咀嚼するように動いているが。


「わりいな。飲みもんを用意してたら遅くなっちまった」
「あ、ジュース! 飲んでも良いの?」


 夜七時以降は禁止されているジュースを持っている事に気付いた昼は嬉しそうに声を弾ませて尋ねる。その横にいる夜も分かり辛いが嬉しそうだ。今日は特別な日だからね、と若菜が夜と昼にジュースがなみなみ注がれたコップを渡す。その間に座った鯉伴にもお酒を渡し、彼女も腰をおろした。見上げれば美しい月が夜空にぽっかりと浮かんでいる。


「あら、本当に綺麗な月」
「でしょう?! 夜もきれいだ、って言ったんだよ」
「……よにんで見たら、もっときれい」
「だな。んじゃ、秋の夜空に浮かぶ真ん丸のお月さんに」


 ――乾杯。


 高く掲げられた盃とコップがちん、と良い音を立てる。
 その後、四人の楽しそうな談笑が月明かりの下、月見団子と飲み物が無くなるまで続いたのであった。








たまには親子四人で。



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