伝える事の出来ない想い




※昼→夜




 この世界に“愛”なんてものは数え切れないほどあるのだろう。人によって異なるそれは、多少似ている事はあっても完全に一緒という事は無い、とボクは思う。例えば、複数の人が一人の異性に恋をしたとしよう。好きになった人物は同じであっても、告白の仕方や、愛の囁き方も何一つ被る事は無いのではないか。万一の場合、被る事があってもやはり何かしら異なった部分が出てくる筈だ。そんな恋も色々な種類がある。幸せな恋だけとは限らない。身分違いの恋、叶わない恋、同性同士の恋……そういった辛い恋も一つの“愛”なのだろう。果たして何人の人がそういう恋愛をしているのかはボクには分からない。けれども、ボクの恋もその一つに含まれている。しかもその中では異常の中の異常。普通からは考えもつかない恋。――ボクは、もう一人のボクに恋をしていた。
 多分、ボクが恋をしている相手の事を他人に話したら九割以上の人が、それはただ単にナルシストなだけだろう、と答えるだろう。確かに普通に考えるとそうかもしれない。“自分が自分に恋をする”なんてナルシスト以外考えられないのだから。ボクだって、ボク以外の人からこういった話を聞かされたら笑いながら、ナルシストなんだね、と答える気がする。自分が好きな人をナルシスト呼ぶとするのなら……。だけれど、ボクが恋する相手はボクであってボクでは無いのだ。何をお前は言っているんだ、と思うだろう。リクオであり、リクオではない、なんて、それじゃあ一体そいつは誰なんだ、と問い詰めたくもなるだろう。良いかい? ようく聞いてくれ。ボクの中にはもう一人存在している。多重人格なんかじゃない、もう一人のボクが。祖母や母の人間の血が濃いボクとは全く逆の存在。彼には、祖父や父の妖怪の血が濃く流れている。だからなのかも知れないが、彼は他の妖怪と同じように夜の間だけ目覚め、“表”に出て来て活動している。夢と現実の狭間の世界で何度も顔を会わせているけれど、彼は格好良い。まだまだ幼い子供の体つきをしているボクとは違い、夜のボクは引き締まった肉体を持ち、精悍な顔つきをしている。(しかも、ボクより背が高い!)これまた性格も良いものだから、女の人にも男の人にも、もてる。彼に寄ってくる者達を数えたら大変な数になるだろう。今のところ恋愛に関しては疎い彼だが、もう少し経ったらそちらの方にも関心が向くだろう。ボクとしてはそうなる前に何かしら手を打っておきたい。恋仲になるのが一番の良策ではある。恋人同士になってしまえば、幾らアプローチをかけられたとしても、彼は拒否してくれる筈だ。と言うよりも、拒否をしないとボクが許さない。そんな良策がある事を知っているボクが、何時まで経っても彼に想いを伝えないのは怖いからだ。彼にボクの想いを伝えて、その想いが彼の重荷になってしまう事が。彼がボクを拒絶する事が。何せ、彼はボクでもある。自分が自分を好きになるなんて、と思われる可能性だってある。伝えたいのに、伝えることが出来ない。たった一言を伝えるだけなのに。そんなボクは臆病者なんだろう。何だか笑いが出てくる。

「……夜。ボクの愛しい半身」

 君にとってボクの気持ちは迷惑なものなんだろうか。それとも喜びに値するものなんだろうか。それが今のボクには分からない。けれども、何時かその時が来たら君に伝えるよ。大きな声で、はっきり君に聞こえるように。

 ――君が好きなんだ、と。







ボクから俺への片想い。若誕お祝いに添えて。



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