▽八高



 分厚い雲が空を覆い、地面を揺らがす程の雨を降らせる8月の土砂降りの夜。一匹の黒猫を保護した。
 その猫は泥と雨と血(多分そいつのものだろう)でどろどろに汚れていて、触るのも一瞬躊躇う程酷い状態だった。何をすればここまでずたぼろになるのだろう。多分、俺が思うに自分よりも体の大きな相手に喧嘩を吹っ掛けたのではないだろうか。此処ら一帯には一際強い集団が根を張っている。そんな奴等に手を出せば幾ら自分が強い猫だと思っていても勝ち目は無い。きっと最初から勝負の行方は目に見えていたのだろう。それでも、目の前の黒猫は立ち向かったのだ。華奢で小柄な体をぶつけて、何かを変えようと思ったのだ。まあ分かりきった勝負の行方なんて簡単には変えられるものでは無い。故に、この様だ。これに懲りて暫くは大人しくしていて欲しいのだが……そう簡単にはいかないだろう。何せ自由気ままで他人に干渉されるのを嫌う猫だ。俺が何を言っても無視してふらふらと何処かへ行ってしまうのだろう。
 それでも良い。ただ、ただ一つだけ願いを聞いてくれないだろうか。

「高杉」

 黒猫の名を呼び、泥のついた髪に触れる。何時もの触り心地はなく、ざらりとした感覚が手に伝わった。

「高杉……お願いだからさ、最後は俺の処に帰ってきてくれよな。怪我してても、汚れていても良いから」

 意識が無い猫の耳元で祈るように囁いて、細くて愛しい体を抱き締めた。






黒猫と俺。 後々書き直します。



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