▽銀←高/3Z/輪廻転生
さて、此処で君に問おう。この世に輪廻転生なんてあるのだろうか、と。俺はあまりこういうのに興味が無いし、考えた事もない。前世の記憶を持っている? ずっと遠い昔、俺は○○をしていた? 俺と貴方は恋人でした? 馬鹿馬鹿しい。そう、馬鹿馬鹿しいのだ。生まれ変わりなんてこれっぽっちも信じちゃいない。
なのに。
なのに目の前にいる生徒は毎日言うのだ。「俺は前世の記憶を持っている」と。
「嘘」
「本当だ」
「証拠は?」
「……」
ほら、ね。まあ証拠と言っても前世の記憶を頭の中から引っ張り出してきて、はいこれですよ、なんて出来やしないから例え記憶があったとしても無理なんだけどさ。
しかもこの生徒、頭がイカれてるのかどうかは分からないが変な事を言う。俺にとっちゃ鳥肌ものの事を。
「先生、」
「なに」
「先生と俺はずっとずっと昔から恋人同士だったんだ」
「は?」
「会えて、うれしい」
生徒と俺は昔昔恋人同士で。しかも今と同じで性別は一緒。更に生徒は鬼兵隊とかなんとか言うテロリストで政府に追われて最終的に一緒になれなかった。馬鹿馬鹿、そんな話があってたまるか。
「思い出して」
放課後になると毎日毎日毎日毎日飽きもせずに国語準備室を訪れて、生徒は同じ言葉を繰り返す。
「思い出して、銀八」
願うように、祈るように、誰かに懇願するように、半分諦めたように、ただそれだけを何度も何度も繰り返すのだ。
「おもい、だして」
俺の事、嫌いでも良いから。
何故こんなに生徒は必死に言うのだろう。前世の記憶が在っても無くても今は高杉晋助という十七歳の男子なのだ。現代は、今を謳歌すれば良い。過去という名の呪縛に囚われる事はない。
「思い出して、思い出してよ」
「高杉、無理だよ」
「何で」
「だって俺には、前世の記憶なんてこれっぽちも無いんだから」
嗚呼。泣く、と思った。目尻にうっすらと涙を溜めて、それでも泣かないように切れ長の瞳を更に細めて。……その顔を知っているような気がした。昔、同じような顔をした誰かを知っているような気がした。
ーーそれでも。
私は、前世のあなたを知りません。
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