▽銀高/3Z
初めてあの子とキスをしたのは何時の事だっただろうか。教師と生徒という関係から恋人という特別な関係に変わって、少し経った頃のような気がする。あの日は五月半ばだというのに真夏のように暑くて、頭がぐらぐらと揺れていた。だからだろうか、何となく、愛しい高杉とキスをしたくなったのだ。卒業するまでは我慢する、と俺から約束していた筈なのに、俺自身からそれを破って強引に唇を重ねた。
目の前で大きく開かれる翡翠の瞳。片方しか無いのが惜しい、とキスをしながらぐらぐらと揺れる頭の片隅で思った事を今でもはっきりと覚えている。
高杉の咥内をたっぷりと堪能してから合わせた唇を離すと、高杉は片方しか無い瞳をゆらゆらと揺らめかせて、もっと、とせがんだ。
あの日から、高杉は俺とのキスの虜になってしまっている。
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先生とのキスは、麻薬を吸った時みたいに気持ち良くなるんだ、と彼は言った。
「麻薬なんて吸った事無いでしょ」
「無いけど、でも、多分あんな心地になるんだと思う。ぞくぞくした感覚が、せなかを、駆け上がるんだ」
俺に見せつけるように、高杉は赤い赤い舌を己の唇に這わせた。ちろりと見え隠れする艶かしい赤。直ぐにでも引き寄せてその唇と咥内を貪りたいと思うが、そうなってしまえば全て高杉の思うが儘だ。それだけはどうしても避けたい。
一向に何もして来ない俺に焦れたのだろう。不健康そうな真っ白な細腕がゆっくり俺の首に回された。
「せんせー」
耳元で聞こえる低い声と、荒い息遣い。
「ねえ、せんせ、」
――キス、して。
にやりと、高杉が笑った気がした。
毒を孕んだ口づけ
ペーパーに再録。
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