▽銀高/3Z



 隣のクラスの担任が結婚した。その話題を流したのが何処のどいつかは知らないが、校内全域に広まるのはそう時間がかからなかったようだ。あまり教師にも学生にも興味が無い俺だが、結婚した女教師の事は知っている。何せ校内一美人な教師と言われている奴だ、何をしていなくても勝手に耳に入ってくる。
 美人か、と聞かれればまあ美人だと答える位には美人だと思う。整った顔立ち、すらりと伸びた手足、白い肌、大和撫子のような立ち振舞い。結婚するならあんな教師のような女性が良い。……残念ながら今のところ俺には女なんて必要無いが。

「たーかすぎくーん?」

 名前を呼ぶ声が耳に届く。声のする方を一瞥すれば、汚い机の上で一服している教師と目が合った。俺には「煙草は体に悪いから吸っちゃだめだよ」なんて言うくせに自分は吸っている。なんて教師だ。他人に言うくらいなら先ずは自分が止めれば良いのに。

「高杉?」

 返事をしない俺に痺れを切らしたようで、吸っていた煙草を灰皿に押し付けこちらに歩いてくる。

「先生が呼んでるのに無視ですかー?」

 鼻を擽るセブンスターの香り。銀八が好んで吸う煙草だ。

「たーかーすーぎー」
「うぜェ」
「ウザいは無いでしょ。先生悲しいなあ」

 大きな手で顔を隠しよよよ、と泣く。どっからどう見ても嘘泣きだ、ばーか。

「女々しいんだよ」
「…………すんすん」
「泣き真似だろうが。大の男がみっともねえ」

 バレてましたか、と舌を出して赤銅の瞳が此方を見た。悪戯に失敗した子供のような、仕草。

「そう言えばさ、隣のクラスの先生結婚したんだって」
「知ってる」
「良いよなあ、結婚。好きな奴と一緒に過ごせるとか……楽園じゃね?」
「そうかもな」

 好きな相手と此れから一生寄り添って生きていけるのだ。幸せなのだろう。しかし、そう出来るのは女と男のカップルだけ。俺達には出来ないのだ。
 幾ら愛し合っていようとも、幾ら体を重ねても、男同士の俺達には、ゴールが無い。繋ぐものもありやしない。

「……」

 もし、もしも俺が、銀八と結婚したいと言ったらこいつは喜んでくれるだろうか。それとも嫌悪を浮かべた顔で俺を拒絶するのだろうか。

「……なあ、ぎん」
「高杉。俺とさ、」

 ――結婚しようか。










しあわせにするとはいわないけれども


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