心で泣いて、哭いて。



▽銀高/原作



 高杉晋助という男は人前で泣くという事をしない。どんなに悲しくとも、どんなに寂しくとも、人前では泣かないのだ。自身の高過ぎるプライドがそうさせているのか、それとも、泣くという事を知らないのか。その辺りの事はよく分からなかったけれど、そんなあいつを見ているのは辛かった。
 ヒトは泣く事によって内に貯まっていたストレスや怒りを外に追い出すらしい。わんわんと声を出して、瞳からぽろぽろと涙を溢して、発散させるのだ。なんて器用な生き物なのだろう。こんな事でストレスやら怒りやらの自身にとってマイナスな事を無かった事に出来るのだから。
では。
では、泣かないあいつはどうしているのだろう。この世界を恨み、憎み、怒り、壊そうとしている高杉は、内に貯まってしまったそれらを吐き出せずにいるのだろうか。

「たかすぎ、」

 傍らに横たわっている男に声を掛ける。返事は、ない。

「高杉」

 もう一度。それでも返事は無く、紫がかった髪がさらりと溢れただけであった。

「どうして泣かないの。辛くないの? 俺は辛いよ、お前が泣かないのを見ているのが」
 俺の方が泣いてしまいそうだ、と言うと先程まで俺を見ようともしなかった高杉が漸く此方に顔を向けてくれた。包帯が、痛々しい。

「銀時」

 掠れた低い声。

「何」
「俺は泣いているさ。何時も、何時も、泣き叫んでいる。手前にゃあ聞こえねえのか」

 ぐいと腕を引っ張られ、体勢を崩した俺は高杉の胸に耳を当てるような形で倒れてしまった。どくん、どくん、心臓が煩い。嗚呼、こいつはちゃんと生きている。

「ぎんとき、聞こえるか」

 どくん、どくん。心臓の音。それと共に聞こえるのはーー。

「俺はずっと、心で泣いているのさ」


心の臓から聞こえた泣き声。



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