▽3Z/死/注意。



 かつかつかつ、と鉄筋コンクリート独自の音が鳴り響く。冷たい色をした鉄筋コンクリートの階段を二段飛ばしで駆け上がり屋上へ。階段を昇りきった後に待ち受ける銀色の扉。なんて冷たい色をしているんだろう。世界は何れも此れも冷たい色で俺を包み込む。暖かな色なんて、何処にも無かった。いや、そう言えば一つじゃなくて一人だけ俺を暖かく包んでくれた人間がいた。冷たい雪と同じ色の頭をしているくせに、ぽかぽかと暖かいあいつ。冷たい世界から引き摺り出してくれたあいつに、俺は惚れていた。向こうも俺を愛してくれた。毎日毎日優しく抱き締めてくれて、キスもくれて、そして、抱いてくれた。冷たい世界が、そいつの傍に居るだけで暖かい世界になったんだ。
 なのに、何故、彼は死んだんだろう。真っ赤な車に跳ねられて、真っ赤な血を辺り一面に撒き散らして、あいつは死んだらしい。らしい、と言うのは俺がその場に居なかったから。あいつが死んだ姿を見たのは暗い暗い霊安室。血なんて何処にも付いていなくて、何時ものように白い体をしていた。死んだなんて信じられなかったが、触れた瞬間、あいつの“死”を実感した。ひんやり。あんなに暖かかった体が嘘のように冷えていたのだ。
 あれから1ヶ月。俺はまた冷たい世界に引き摺り戻され生きていた。必死に暖かい世界へ戻ろうと、あいつの服に包まれたりしたが駄目だった。やっぱり、あいつが居なければ世界は冷たいままだ。だからあいつの場所へ逝こうと思った。一人は寂しい。此の世界は冷たくて暗い。向こうへ逝けば、きっとあいつが出迎えてくれる。そっちは暖かいだろう?
 ドアノブを掴んで錆びれたドアを開ければ、そこはフェンスに囲まれた屋上。フェンスに手をかける。がしゃん。足をかけてそれを越える。がしゃ、がしゃ、がしゃん。
 さあ、後は此処から一歩、二歩踏み出すだけだ。さようなら、冷たい世界。もう二度と会う事は無いでしょう。

「ぎんぱち、」

 そちらへ逝ったら、抱き締めて暖めて下さい。此の体は、氷のように冷たくなっているだろうから。


今日は、暖かい世界。


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