「・・・困った」


私は今、屋上に来ている。
というより最近はずっと屋上にいる、というのが正しい。

理科室には恐らく了がいる。
一週間前の出来事のせいで、すごく会い辛いということもあるのだが…



「それを世間では恋っていうもんだ」エコー

「それを世間では恋っていうもんだ」エコー

「それを世間では恋っていうもんだ」エコー




「(・・・・・・・・・!!!!)」

私は頭を抑え身もだえした。

井上先生による診断の結果を聞いたせいで、余計に行き辛い。


どうしようか―――――――――――――








――――その頃、保健室では。


カチャカチャ、とキーボードを打つ音が響く。
井上はパソコンを開き、なにかを作っているようだ。

一息がついたところで、井上は一番奥にあるベッドの上に佇んでいる人物に視線をよこした。


「おい、了。そろそろ、白鳥と会ってやったほうがいいんじゃないのか?」

「・・・わかってます・・・。けど、それが簡単にできたら苦労なんてしませんよ」


了の表情は曇っている。
あの後、理科室に逃げ込んでたところに。すぐ井上から、
白鳥が泣いていた、と告げられたことが原因だろう。

了は決して、コウが嫌いなわけじゃない。むしろ、逆だ。
好きな相手だからこそ、自分の体の状態を教えたくはなかった。
こんな自分を知られるのが怖かったのだ。

しかし、コウはそのことを自分のせいだと感じているに違いない。

泣いた、ということはそういう意味になるから――――


「僕、最低だよな・・・」

自虐的に呟かれる言葉。
それに対して井上は、

「・・・なんだ。やっと分かったのか」

落ち込んでる了に容赦なく棘を突き刺した。
分かってるなら早く行け、と井上は催促するが、了はうずくまり、黙ったままだ。

痛い沈黙が保健室を襲う。


「・・・おい」

「・・・」

「おい」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・おい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



ブチッ


呼びかけに、いつまでたっても応じようとしない了に

――――ついに井上の血管が切れた。




「お前、いい加減にしろ。今、一番辛いのは明らかに白鳥だ。

お前はただ過去のことを引きずって、自分を見下して、過ごしてただけで、
それで相手のためといいつつとった行動が相手を一番傷つけることをいつまでたっても学習しない。

・・・不治の病がなんだ。

今を頑張って生きようとしないやつに、これからの未来を失望する権利なんてこれっぽっちもない。


保健室は、頑張って生きていく人のためにあるんだ」



「・・・!!」


「わかったら、白鳥に会いにいけ」



いままで悩んでいたことが、つっかえていたものが取れていったような感じがした。

・・・そうだ。僕はなんでこんなところにいるんだ。
僕にはやるべきことがあるというのに。

了はベッドから抜け出して、勢いよく保健室の扉へ向かった。
扉を開けようとする了に、井上は微笑んで、最後の土産だ、と口を開く。


――――実は、コウも不治の病に冒されているんだ。


了の顔は驚愕の色に染まる。

しかし、迷いを吹っ切って、勢いよく、無我夢中で廊下に飛び出した。
全ては、あの子のために。

迷いをなくした了は、真っ直ぐ廊下を突き進むのだった。



・・・


「やっと行ったか」


保健室に、ひとり残される井上。


「あまり無茶するなよ、了」


心配している発言とは裏腹に、嬉しそうな声が真っ白な保健室に響いた。

さて、また仕事に戻るかな、と思ったとき、誰かが扉を開ける。

了じゃないかと思ったが、そこには小さな影がひとつ。


「・・・すいません。少し相談したいことがあって」


見覚えのある女生徒。
ああ、彼女は――――――


「相談料は高いぞ」


彼はそういって、今日も病気を治していくのだ。




恋わずらい
(彼も、彼女も、不治の病にかかっている)
















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