「ッ失礼します!」


コウは、勢いよく扉を開けた。

その音で、保健室の奥で眠っていた主は起きて、顔に乗せていた写真集らしきものを取る。
艶のある黒髪を風に靡かせて、男は此方を向く。


「・・・なんだ、白鳥か。珍しいな」


保健医・井上朱利は黒曜石のような目を細め、珍しそうにコウを見た。
そして、隣にいる人物へと視線をずらした。


「隣にいるのは・・・了、か・・・。なんだお前、また調子悪くなったのか?」


「いやー…さっきガラスの破片で指を切っちゃいまして。ほっとけば治るのに、この子が保健室に行くぞ!って強制的に連れ出すもんですから」


朱利はその光景を安易に想像した。
少しの沈黙のあと、微笑して、


「なるほど、白鳥が言いそうなことだな」


ちょっと待ってろ、と朱利は絆創膏の入っている引き出しを漁った。

漁っている最中、コウは疑問を口に出す。


「…井上先生と仲いいんだな」


井上朱利、という人物は、色々と謎が多い。
綺麗な黒髪黒目、端正な顔立ちといういかにも日本美人の学校1のイケメンの先生なのだが、
先生なのに、めったに笑わない、保健室にあまり長居しないという色々と謎の多い先生なのだ。
どことなく空夜に似ている。…人を寄せ付けない雰囲気を纏っているところとか。


「んー…まぁ、数え切れないくらいお世話になってるしね」

「・・・サボりか」

「うん」


溜息を付くコウに対して、容赦なく即答する了。


「おい、了。嘘付くなよ…お前は体が弱くて、保健室にいるんだろうが」


絆創膏だ、と朱利は了にビッと絆創膏を差し出す。

了は無言でそれを受け取る。


「余計なこと言わないでくださいよ、朱利さん」

しかも、そんなに僕は体弱くないですし、と了は付け足すが、井上は不服そうに眉間に皺を寄せたままだ。


「本当のことだろう。現にお前は数え切れないほど―――「朱利さん!!!!」


突然、大声をあげる了にコウは驚愕した。
こんなに焦っている彼を一度も見たことが無い。普段の飄々としている彼は今はどこにもいなかった。


「確かに僕は人より体が弱いかもしれない、けどまだ全然動けます」


大声を出してしまってすいませんでした、と了は保健室を後にしようとした。

が、コウが了の制服の裾を引っ張って離さない。


「・・・教えてくれ」


お前の体のこと、それは小さく懇願する声。
彼の事が知りたい、と本能的に行動したこと。
心なしか、裾を掴んでいるコウの手が震えている。

どくり、どくり、心臓は鼓動を速めた。


しかし――――――


「無理」


了は拒絶の意を示し、
コウの手が緩んだ瞬間、静かに保健室を去っていった。







コウは初めて拒絶されたショックで頭の中が整理できないでいるらしい、その場に立ったっきりだ。


「おい」


それを見て、朱利はコウに声をかける。
コウは黙ったままだ。


「あいつは自分の体のこと・・・お前にだけには知られたくないらしいな」


コウから言葉は返ってこない。


「だが、それは悪いことじゃない。あいつのことだ、いずれは話してくれる」




だから、




「そんな泣きそうな顔、するな」


な?と朱利は困ったように微笑む。

コウは泣くのを我慢していたが、ついにダムが決壊したように涙が溢れる。
涙は止まることをしらない、ポロポロと双眸から雫が落ちていく。



「・・・っ迷惑だって、分かってる、んです・・・。
でも、どうすれば・・・・いい、のかもッ・・・全、然・・・分からなッ・くて・・ッ」


拭っても拭っても止まらない涙。
嗚咽交じりでも話すことを止めないコウに、朱利は黙ってそれを聞いていた。




「こんな・・・気持ち、ッ・・・初めて、なんです」


この一言で朱利は確信する。



「お前の状態は大体分かった」


いきなりすぎて整理追いつかないと思うが、気持ちは素直になったほうがいいぞ。と朱利はコウに、タオルを渡す。



「・・・それを世間では恋っていうもんだ。

――――保健室は貸切にするから、落ち着くまで此処にいろ。


保健医である俺が隣にちゃんといる、だからお前は安心して思いっきり泣け」












まさかあの白鳥が了のことを好きになるとはな。


あれから、本格的に涙腺が決壊したコウは、今は泣き付かれてベッドで眠っている。

朱利は椅子の背もたれに寄りかかった。


しかも、了の反応からして、おそらく了も――――



「・・・頑張れよ、二人とも」


高校生は大変だぞ、と朱利は目を細め、天井を仰ぐ。

その瞬間、ヒラリ、と


雨宮了の病状記録という紙が机から覗かせた。





彼の事情
(不治の病にかかっていたのは彼のほうだった)















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