ふわり ふわり 浮かべていれば

朧気に覚えているのは 微かな光





クライズ 第5話



―――翌日の朝。

私は、眠れない夜を過ごした。


空夜が隣人だったなんて…ある意味ショック。
私のプライベート丸分かりじゃないの!!??


セツナは眼を細めた。

嗚呼、空が眩しい…


そんな睡眠不足全開な私は、

現在マンションの13号室前に来ていた。


インターホン越しで、私はスゥッと息を吸い…


『おはようございます!隣に引っ越してきた彩水セツナです』

「…知ってるよ」


不機嫌そうな彼の声が返ってくる。

さては、さっきまで寝てたな。


『いや一応、あいさつだから』

「今、何時だと思ってるの?」

『7時』


にっこり、笑ってそう言ってやると、空夜は疲れたようにため息をつく。


「とりあえず、中入って」


空夜は、ドアを開け、中に入るように催促した。


『へっいいの?じゃあ、お、おじゃまします…!』


おそるおそる空夜の部屋の中に入るセツナを空夜は、
ただ後ろからボーッと見送るだけだった。


想像どうりの殺風景。

家具は必要なものしか置いてないし…
でも、綺麗な部屋だし。
使ってるのかな…?

いや、まさか…


『…空夜って、ちゃんとご飯食べてる?』


「一日二食は食べてる」

『少なッ!!いつも、どんなもの食べてる?』


「…カロリーメ●トとか、パンとかお握りとか。時々、自分で作るけど」

『偏りすぎッ!!育ち盛りなのに…だから細いんだよ!』


ダイエット中の女子か!!


「運動してるからだよ」

『尚更、食べなきゃダメ!私、今から朝ご飯作るよ』


「悪いよ」

『いや、私の分も作るし』


セツナはキッチンに上がりこみ、冷蔵庫の中身を確認した。

うん、一応、卵とか野菜とか基本的なものは揃ってる…
これなら作れるね。


『じゃ、作るから少し待ってて』

「ん、悪い」


空夜は、フラフラとベッドへと沈んでいった。


『…10分位で作れるかな』

ポツリ、静かな空間に響く。

この10分間のために、16年間のスキルをフル活用したのは言うまでもない。



―――10分後


10分後には、部屋中に、ふわりと良い匂いが広がっていた。


『空夜できたよ!』

「…ん」


モゾモゾと動く二度寝していた、空夜は寝室から出て、
未だ眠そうに、朝食が並んであるキッチンに向かった。

テーブルの上には、
ご飯、味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたし、焼き鮭が並んでいた。
見事な和食オンリー。


意外そうな顔付きで空夜は、箸を取る。


「…君って見かけによらず、料理できるんだ」

『む、失敬な!これでも、並くらいはできるよ』


私は、これでも今までずっと料理してきたんだからね!?

少しムカッとしたが、空夜がいただきます、といった後、
無言で黙々と食べる彼を見て、私は少し不安になった。

失敗してたらどうしよう…


「…美味い」


彼の一言で、ぱぁっと花が咲き誇るように、私は生気を取り戻した。
…現金なやつとは言わないで。


『空夜のことだから和食のほうが好きそうだったから、和食にしてみた』

「…へぇ」


分かってるね、といい、黙々と食べていく空夜。

次々と消えていくおかずたち。
いけない、私も食べなきゃ…!


意外と食欲旺盛だったらしい空夜は、


「ご馳走様、美味しかった」


ついに食べ終わったらしい。


『お粗末様でした』


残った朝食は弁当にしよう。


「少し、準備してくる」

空夜は席を立ち、クルリと背を向けた。


『ん〜』


チラ、と横目で朝食を早速弁当につめているセツナを見送り、

空夜はキッチンを後にした。








空夜が来たのは、寝室だった。


「まいったな」


溜息混じりに、空夜は壁にズルズルと持たれかかり、うな垂れた。

最近は、仕事や学校、色々なものが積みなり過ぎて、全然食事をとれなかった。


元々食が細かった空夜は、多忙でますます食の無さに拍車をかけていたのだ。


僕は、セツナに嘘を付いた。


本当はまともに食べていない。

セツナのことだから、ほんの些細なことでも心配するだろう。
なるべく、セツナに心配はかけたくない。

その一生懸命で真っ直ぐなところはいいんだけど…ね。


それは、僕以外のことで使ってほしい。




空夜は心の中で呟く、



でも―――


君のご飯だったら、毎日食べてもいいかも、と空夜は不敵に笑った。





(彼は、どこか余裕だ)
















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