幕開けの合図がした



朝5時まで隣町のコンビニでバイトをした体を鞭打って、学校まで走って行けば登校時間ギリギリになってしまう。自転車に乗ればきっと楽なのだろうけど、家の倉庫に放置したまま、今やすっかり倉庫の住人に成り果てている。随分前に買ってもらった自転車は、当時の体には大きすぎてすぐしまってしまったのだ。きっと今頃ほこりまみれだろう。手入れの時間も考えると、中々取り出す気にはなれなかった。今は、少しの時間ですら惜しい。

いかんせん、時間がない。学校が終わればすぐ隣町のレストランでバイト。その後、一旦家に帰って休息をとってから、また隣町に繰り出して今度はコンビニで朝からバイト。

我ながら社会人真っ青なスケジュールだと思う。まあ気合い、ガッツがあればなんでもできる。ふと脳裏に「極限」が口癖の、友人の兄の姿がよぎったが、私はあそこまで熱血漢じゃないし、大丈夫大丈夫。もう既に手遅れな気はしているが。

冷静に考えて、中学生である自分がこんなにバイトを入れていること事態おかしいのだ。それも私の家の経済状況は、ぶっちゃけると、だいぶ良い。毎日遊んで暮らせるくらいには良い。だから、客観的に見れば、金銭面で不自由のない私が、バイトをする必要なんてないのだろうけど。それでも、

「(一人暮らしには、まだ足りない...)」

中学校を卒業して、県外の高校に進学すればもうこの家に帰る必要もない。金銭面でも、なんでも自分で全てやってしまえば、こちらに手出しはできないだろう。まだまだ中学校生活は長い。3年間も働けば、軍資金はだいぶ貯まるだろうし。あとは私の努力次第。

「...頑張ろ」

私は早く、大人になりたい。自立して、誰の手を借りないでも一人で生活できるように。この体じゃ、色んなことが枷になってしまって本当に嫌になる。







「やっぱりアイツはダメツナだな!」

ギャハハと笑いながらクラスメイト達が向こうから歩いてくるのが見えて、思わず物陰に潜んだ。テストは毎回赤点、スポーツはアイツのいるチームは必ず負ける。ダメツナ_同じクラスの沢田君は、周りからそう呼ばれている、らしい。私はあまりそういった話をしないし、関わるつもりもないから知らないのだけれど、今の話を聞いているとだいぶ陰湿そうだ。

「ていうか、アイツら今日体育館掃除なのに...」

時間にすれば、今は体育が終わって約5分ほど。体育館掃除は普通、30分はかかるから今彼らがこうして廊下にいるのはどう考えてもおかしい。はぁー、と溜め息が漏れた。絶対沢田君に丸投げしているでしょ。あのツンツンヘアーがどこにも見当たらないことからして。

「どーしよっかなぁ...」

手伝いたいのは山々だけど、今日バイトだし。それに、私は、あまり沢田君と話したことがない。小学校も一応一緒だったけど、クラス最後の1年しか一緒にならなかったし、いきなり私が手伝うって言ってむしろ沢田君は困らないだろうか。だって気まずい。ああでも、

「ひとりは、嫌だよなぁ...」

一人きりであの広い体育館を掃除する沢田君の姿は容易に想像できた。一人でやるにも限界があるだろうし、心細いかな。チラリと近くの教室の時計を見れば、まだ時間に余裕があった。このまま何もしないのも、なんだか後味悪いし。

「...ちょっとだけ、手伝うか」

だから、ほんのちょびっとだけ、バイトに遅れないくらいだけ。





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