友人Yの証言



「さすが和田原、よく分かるな」

山本武は、後ろの席に戻ってきた和田原瑞穂に声をかけた。勉強が苦手な彼は、もちろん先程の問題がさっぱり分からなかった。改めて、後ろの席の人物を尊敬する。

「いやいや、たまたまだよ」

そう彼女は言っているが、それは嘘であると彼は知っている。だって、入学してからこれまで彼女が前で間違えた光景なんて一度も見たことがない。例え、問題がどんなに難しくても、だ。彼女は、先生さえ唸らせるような模範解答を答える。それも毎回のように。

「お前、本当にすっげーのな」

それが、山本武が和田原瑞穂に抱いた印象だ。


和田原瑞穂は、入学当初から山本の後ろの席の女子である。入学初日、山本は後ろの席の彼女に話かけた。彼は、誰に対しても基本的にフレンドリーである。もちろん、瑞穂に対しても同じだった。

「あ、よろしく」

どこか間の抜けたように返事をした瑞穂を見て思わず笑ってしまったのは許してほしい。まさか話しかけられるとは思っていなかったのだろうか、目が点になっていた。

瑞穂は急に笑いだした山本を不思議そうに眺めていたが、次第に恥ずかしくなったのだろう。笑いすぎじゃない?と山本の顔の前を手で振った。それもなんだかおかしくて、更に笑ってしまったのはさすがに申し訳ないと思っている。


出会いこそ山本が一方的に笑ってしまったが、2人とも明るい性格のためか、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。山本と和田原、2人合わせて人気者コンビと呼ばれているが、本人達は知らない。

学校生活を送っていく中で、和田原が勉強も出来て運動神経も抜群だと知り、彼の中で彼女のパロメーターは「おもしれーやつ」から「すげーやつ」に上がりっぱなしである。山本が出来ない勉強も、彼女は完璧にこなすため、尊敬するばかりだ。一度、数学を教えてもらったが死ぬほど分かりやすかった。更に時々宿題も教えてくれるから、やっぱり持つべきものはよい友、和田原である。

和田原と休憩時間、全力でキャッチボールしたのも楽しかったし、今度一緒にバッティングセンターにでも行きたい、と山本は密かに考えている。どちらがより多くホームランを打てるか、競えたらきっと楽しいに違いない。


和田原もきっと、心の底から笑ってくれることだろう。瑞穂の、まだあまり見たことがない笑顔を想像して、山本は口角を少しだけ上げた。


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