星が死んだ日



Act.01 スター・トレイン Star train









もし私が、前世の記憶があるなんて突飛じみた話、話していれば信じて貰えたのだろうか。










今更こんなことを考えても遅いことはよく分かっている。私はもう手遅れだろう。自分の状態は自分が一番理解している。腹部からにじみ出る血液はとどまることを知らない。下半身はもう感覚がないし、頭からだって生温かいものが流れているのを感じる。視界だって、だんだん霞んできた。今や意識すら保つことでさえ難しい。これで2回目になる感覚だけど、この痛みはやっぱり慣れそうになさそうだ。大体慣れてたまるか、て話だけど。

「はっはは...私、また死ぬのか」

最早涙すら出てこない。いっそ笑えてくるよ。せっかく2回目のチャンスをもらったのに、私はまた棒に振ろうとしている。



パラレルワールドは、いくつもの「if」_「もしも」の数だけあって、それぞれの世界で分岐していると聞いたことがある。だから、例えば私がまだ一度も死んでいない世界_まだ長月穂乃果として生きている世界も、今こうして死に行く世界もあるわけだ...そして「もし」私が彼らに真実を伝えていた場合の世界も。

「悪いこと、しちゃったな」

脳裏に浮かべるのは、この1、2年で随分と親しくなった彼らのこと。私が死んでしまったら、人の良い彼らのことだ。口ではどう言っていても、気にしてしまいそうだ。特に、あの人一倍お人好しな彼は。自分のせいだと、実際は全て私の独断のせいなのに、ずっと引きずってしまいそうだ。それだけは、本当に嫌だな。もう死ぬことは受け入れはじめているし、事実しょうがないものとして割り切りている...と思うけれど、私のせいで、彼らを悲しませてしまうかもしれないのは、嫌だなあ。

それでも「もし」。もし前世の記憶を話すことで私は助かることになっても、私は絶対話さなかっただろう。自分の命と彼らを巻き込むこと。天秤にかけてみても、私は彼らを巻き込ませたくない。エゴだなんだと言われても、これだけは譲れない。





...ああ、でもやっぱり、このまま一人で死ぬのは嫌だなあ。まだあの人たちにも会えてないし、まだまだやりたいことだってあったのに。どうして、またこんなに早く死なないといけないのかなぁ。

後悔ばかり渦巻いている。今度死ぬ時は絶対後悔しないって決めていたのに。


薄れゆく意識の中、焦った表情を浮かべてこちらに近付く彼らを確認して、私はゆっくりと瞼を閉じた。

...ああ、本当はそんな表情なんてさせたくなかったのに。









【どこかの世界でのある年の11月某日のこと】





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