マサ蘭♀
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それはサッカー部の練習がはじまる前に起きた。
俺にとっては一大事のことだ。
「みてくださいよみなさん!」
サッカー部の更衣室の前に居た俺はその声を聞き、まだ男子が練習着に着替えているだろうが、ドアを開けて中に入る。
バーンと効果音が出そうなくらい思い切りある紙を見せびらかす天馬。
まだ着替え途中の部員も居たが俺はずかずかと天馬の前に立ち、その紙を取る。
後ろから神童が「霧野、一応お前は女なんだから」とため息混じりに言っている声が聞こえたが、まあ無視しておこう。
ちなみに一応ではなく、れっきとした女だ俺は。
「なにこれ、手紙?」
俺が手紙をじとりと見ながらそう言うと天馬が、そうなんですよ!と狩屋をみてにやにやしながら言った。
女と言うものは勘が鋭いのだ。
天馬の後ろに居た狩屋に目線を移し一言。
「ラブレターだろ」
「まあ、そんな感じのものですかね」
視線を斜め下に向ける狩屋。
狩屋の前に立ち、手紙をぎゅっと握りながら顔を覗きこむとぎょっとした顔をしているではないか。
「よかったな」
手紙を狩屋の頭に押し付け俺は更衣室を後にする。練習の準備をすると言いながら。
俺、ちゃんと笑えていただろうか。
きゅっと目を瞑りとにかく走った。
霧野蘭丸。実は狩屋マサキの事が好きだ。
なのにラブレターって。
はあ、とため息をつき、誰もいないグラウンドに向けてボールを思い切り蹴りあげた。
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もちろん練習中の試合にも目が行かず、マネージャーの仕事であるスコア付けにも集中力できなく、ボーッとするなと鬼道コーチに叱られた。
ちらりと狩屋を見るとバッチリと目が合ってしまった。ああ気まずいなあ。
口では「よかったな」とは言ったが、全然よくない。
なんとなくだが狩屋が取られてしまう気がしてもやもやする。
(やだなあ…)
試合が一旦休憩になり、俺はみんなにドリンクを配る。
みんなに渡す訳だからもちろん狩屋にも渡すわけで、だ。
普通に振る舞おう。そう心にとめた。が。
「おつかれ」
「あ、はい」
ドリンクを渡す時に手が触れてしまい、反射的に手を離してしまった。
ドリンクは俺のジャージにべっちょりだ。
「あ、狩屋、ごめん」
「いえ、取り損ねた俺も悪いんです」
「着替えてくる」
鬼道コーチに一言いい、俺は更衣室に向かった。
「あーあ…カッコ悪い」
1人しか居ない更衣室でそう呟く。
なんで動揺しちゃうのだろうか。上のジャージを脱ぎ、新しいシャツを着る。
ジャージをきゅっと握り椅子に座り天井を見つめる。
頬には生暖かい涙が。本当、カッコ悪い。
「霧野、先輩?」
「っ!狩屋!?」
更衣室の入り口を見ると狩屋がこっちをびっくりしながら見ていた。
俺は涙をふき、自然に振る舞った。
「いやーさっきはごめんな?狩屋は濡れてなかった?」
「俺は大丈夫…ですけど、先輩なんで泣いてるんですか」
「泣いてないって」
首を振り、狩屋を見つめる。すると狩屋が近づいてきて俺の頬に触れた。
「な、にして」
「なんで泣いてるかわからないですが、先輩泣かせるやつ、許せないんですけど」
お前だよ。と喉まで出かけたが「目にゴミ入っちゃっただけだから」と誤魔化す。
すると狩屋は俺をぎゅうっと抱き締めた。狩屋の心臓がドクドクと近くに聞こえる。
「先輩」
「な、なんだよ…」
「俺、先輩の事」
(この後どうなったかは俺と狩屋だけの秘密である)