マサ蘭
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好きだと認めたくなかった。
顔は綺麗だしかわいいって噂の霧野先輩。しかも優しい(俺にはあまり優しくないけど)声も綺麗、らしい。そして霧野先輩の笑顔がみんな大好きだって、この間天馬くんが言ってたような。
そんな霧野先輩を目で毎日のように追っているのは好きだからじゃない、絶対。
ただ、次はどんないたずらしてやろうか考えているだけだ。そうに違いない。
「狩屋、一緒にボール運んでくれないか?」
こっちこっちと手招きする霧野先輩に近づくと先輩が1人では持てないようなたくさんのボールがあった。
仕方なく少しボールを持つと霧野先輩はふにゃりとした笑顔で、ありがとうと言った。
ついでに体育館倉庫まで運んでくれないかと頼まれた。暇だし、なにか先輩をからかうネタが見つかるかも、と思い承諾した。
「ふー重かったな、大丈夫か?狩屋」
「平気です」
また運ぶの手伝ってもらおーと霧野先輩はこちらをみてにやりと笑った。
なんかムカついて先輩の後ろを指さし、クモ、と言う。もちろん嘘。
「ぎゃああ!」
目をつむった先輩が俺にぎゅっと抱きついてきた。
先輩からは部活後とは思えないほどいい匂いがする。
「先輩、嘘です」
「っ!おまえなあ!」
これで先輩をからかうネタが1つ増えた。なんていい日だろう。
先輩が俺から離れて行き、なんとなく腕が寂しくなる。
もっと抱きついてくれればよかったのに。いや、ちがう、なんでもない。
「もう、帰るぞ」
先輩が先に体育館倉庫から出て行き、俺は1歩後からついて行く。
「そろそろ夏だなー」
「海、とか」
「お、いいな、行きたいな」
つい、先輩の髪の毛をくっと引っ張ってしまった。
あ、まずい、なにしてんだろ、俺。
「なに?」
「いや、ほこり」
とっさに嘘をつくが、後からクモがついていたとからかえばよかったと後悔。
「ありがとう」
そんな嘘をつけなかったのはなんでだろうか。
ただ、先輩の髪の毛に触れていたかっただけなのかもしれない。
「一緒に行くか、海」
「先輩と俺で?」
「いや?」
「別に」
顔があついのと心臓がバクバクうるさいのはきっと、夏が近いからだ。
そうだ。そうにちがいない。