マサ蘭
狩屋19歳、霧野20歳

狩屋21歳、霧野22歳
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「俺、明日お見合いなんです」

ベッドの上での行為が終わった後、狩屋が小さな声でそう言った。
狩屋はヒロトさんに吉良財閥の跡取りに選ばれたらしく、高校を卒業した後、忙しそうに毎日ヒロトさんから仕事の内容を教わっていた。
なので俺たちが会えても週に2回くらい。
別に寂しくはない。狩屋が一生懸命働いてるんだなってわかっているから。俺は応援したくなったんだ、狩屋を。
けれどお見合いって。

「今、吉良財閥も不安定らしいんです」

だから、いい会社の娘と結婚させて吉良財閥を成長させるとかなんとか。
俺にはよくわからない話だった。けれど1つ分かった事がある。それは狩屋が俺と別れようと言った事だった。

「なあ、いい加減さ、新しい恋人とか作っちゃったら?」

テーブルの向かい側でペペロンチーノを巻いたフォークを俺に指しながら南沢さんがそう言った。
以前、住んでいたアパートを引っ越し、今は南沢さんの家でお世話になっている。
狩屋と別れてからもう2年がたつが、あれから恋愛というものは全くと言っていい程していない。する気がないのだ。

「神童とかさーいいじゃん金持ち」

「神童は親友ですから」

「じゃあー…あ!剣城とか」

「なんで元サッカー部ばっかりなんです」

しかもみんな男じゃないか。とはあえて口には出さない。
南沢はフォークをカチャリとお皿に置いて俺をみた。

「狩屋の事、まだ好きなんだな」

「まあ…」

意外と一途なんだな。
南沢さんはまたフォークを手に持ちペペロンチーノをくるくる回す。
俺はというとカルボナーラに1口も手をつけてない。
最近、思い出してしまうんだ。狩屋と付き合っていた頃を。
そのせいか、物が喉を通らないし、頭もすぐいたくなる。

「まあ、無理に新しい恋人つくれとは言わないさ」

「はい…」

食器を洗いぽやっとまた狩屋の事を考えてしまった。
狩屋と別れてからすぐに家も引っ越したし、携帯も新しいものに変えてしまった。
アドレス帳から狩屋マサキも勢いで消してしまった自分を呪いたい。

「あ、霧野」

「なんですか」

「スルメ買ってきてくんない?」

お小遣いー。と投げられた100円をキャッチしたものの、100円じゃたらないだろ、と言い返す気分にもならなかった。
しかたなく靴を履き、コンビニへと向かった。

「あ、」

コンビニをでて家に帰ろうとしたはずなのに、ついつい歩いてきてしまったのは前の家だ。
もう夜中で周りには誰もいない。
じゃりっと自分の足音だけが響いた。
ここで、はじめて狩屋とキスして、はじめて自宅デートなんかしちゃって、はじめて料理作って、はじめて体繋げて。別れを告げられて。
沢山喧嘩もしたし、沢山笑いあった俺たち。

「かり、や」

もう一度、もう一度だけ会いたい。好き、だった。って伝えたい。お幸せにって笑っていいたい。

「霧野先輩?」

「っ、え?」

涙でぐちゃぐちゃになった目をこすり、後ろをみると、そこには狩屋が立っていた。
どんどん狩屋は俺に近づいてきて、でもお互いなにも言わなくて。先に口を開いたのは狩屋だった。

「お久しぶりです」

ちょっと声が低くなり、背が高くなった狩屋を見上げる。
まさに働く男。という格好だ。

「なにして、」

「こっちのセリフですよ」

「俺は…昔の自分の家みたく、なって」

というのは嘘だが、間違えて昔の家に帰ってきてしまったなんて恥ずかしくて言えない。

「狩屋こそ」

「…毎日俺、ここに来てるんですよ」

「え?」

ぱさっと手に持っていた袋が地面に落ちる。
びっくりした。狩屋の言葉にもびっくりしたが、抱きしめられている事に俺は驚く。

「先輩に会えるんじゃないか、って」

だって先輩、メールアドレスも電話番号も住所も全部変わってるんですもん。
狩屋はきつく俺を抱きしめながらそう言った。

「これで名字まで変わってたらどうしようかと思いました」

「か、変わってるかもしんないぜ?」

「さっき、霧野先輩って言ったら振り向いたじゃないですか」

それが何よりの証拠です。と狩屋はなんだか余裕な声音で言う。
俺はきゅっと狩屋の背中に手を回した。

「彼女とは上手くいってるのかよ」

「あ、そのことなんですが」

「なに?」

俺は狩屋を目をじっとみる。
相変わらずはっきりした金色だ。

「お見合いは無かったんです」

「…はあ?」

「俺、ヒロトさんに頼んだんですよ。他の企業に頼んなくても立派に会社運営しますからって」

「なんだよ、それ」

「だから、先輩を迎えに来ました」

なんちゃって。そう笑った狩屋に涙目になりながら俺ばか、と軽く狩屋の頬を叩いた。

「もっとはやく迎えにこい」

「立派になってからじゃないと、と思いまして」

はは、と笑い見つめ合う俺たち。
2年ぶりのキスは2年前と変わらず甘く、優しく、素敵なものだった。

(この後、一緒に住みましょうとプロポーズされるなんて2年前じゃ考えられなかったな。)

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南沢さんのスルメはどうなるのやら

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