短編 | ナノ



さよなら、

『千景ー』


風間家の屋敷の中で私が走り回る音が木霊する。

その音を聞き付けて、千景が私の前に現れる。


「どうしたみのり」


『あ、いたいた。千景、千鶴ちゃんが呼んでたよ?』


「何…?千鶴が?……そうか」


私と千景は幼馴染み。

私は親に捨てられた人間で、千景は西の鬼の頭領。


そんな2人がいつでも一緒にいるのは周りからしたら異様な光景なんだろうが、そんなこと昔の私達には関係なかった。


でも最近は、千景は東の鬼の生き残り、"雪村千鶴"を嫁にして、私達が一緒にいることがほとんどなくなった。


きっとそのうち私はこの家を出ていかされるだろう。



千景には千鶴ちゃんがいるし、私がやっていた家事も千鶴ちゃんがやることになるだろう。


…私が、ここにいる理由が無くなる。



これからは、私1人で生活していなきゃいけなくなるんだ…







千鶴ちゃんのもとへ向かう千景を見ながら呟く。


『…千景にいらないと言われるくらいなら…』


その前に自分から出ていこう。



私はそう決意し、荷物を纏めるため自室へと向かった。















『…よし、』


必要なものだけ簡単に纏め、出ていきます、今まではありがとうございましたと書いた紙を机の上にのせ、私はそっと部屋を出た。


誰かに見付かるかと内心ドキドキだったが、いいのか悪いのか誰にも気付かれずに屋敷を出ることができた。


『…ありがとう、ございました』


家主に挨拶せずに出ていくのはどうかと思ったが、千景に会ったらこの決意が壊れてしまいそうだったから。


門の前で屋敷に向かって一礼し、想いを振り切るように走り出した。




さよなら、

(ありがとう、千景)(千景を頼むね、千鶴ちゃん)

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