ぐだぐだ | ナノ
「やっぱり合唱は無理だわ」
部活も終わった帰り道、隣を歩く彼女が不意に今日の音楽の授業の話を切り出した。
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中学校の実技授業は美術と音楽があって、俺はあまり実技の時間が好きじゃなかった。それは一緒だと隣の席のあいつも言っていた。
中学校の音楽といったらちょっと楽器を触るか合唱か、たいしたことないと思われるんだろうけど、こんな俺やあいつにとってめんどくさいことに変わりはない。最近はクラスを少人数のグループにわけて合唱をするという授業をしている、練習は各自で行っていた。やっぱりめんどくさいし半ば自習状態だ。
「霧野、これリーダーから、楽譜できたって」
「ああ…」
「怠そうね」
こういう時神童を羨ましく、恨めしいとさえ思った。人数が中途半端になるという理由でピアノ伴奏に回れるあいつの技術。歌うよりマシだ、勿論俺は弾けないけど。向こうで他のメンバーが練習しているのを少し離れた位置から見ていた、熱心だこと。その輪から楽譜を持ってきてくれたあいつはこんな様子を見るなり苦笑して、また戻るのだろうと思いきや俺の向かい側に座って頬杖をついたのだ。
「霧野のパートは?」
「テノール、バスなんか低くて出ないし。お前は?」
「あ、ああ…ソプラノよ」
「うわ、メインかよ」
1年からこいつとは同じクラスで、いつも席が近いからっていう至極単純な理由で仲良くなった。サッカー部の時とは違う、マネージャーとも違う、気を許せる数少ない女友達。だから俺は知ってる、本当はこいつ、すごく歌が上手いんだってこと。
「ちょっとそこの2人!合わせるからこっちきて!」
リーダーのお呼び出しに渋々立ち上がって神童の座るピアノの周りに集まった。あいつは向かい側でめんどくさそうに立っていて、折れと視線がかち合うなり両手を上げてやれやれとポーズを取った。
ピアノの伴奏が始まって、歌いだし、あいつのソプラノの歌声が大きな波になって音楽室全体を包み込んだ。
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「やっぱり合唱は無理だわ」
「そうだな、お前の歌声で俺らの声聞こえないし」
「うるさい」
「誉めてんだよ」
部活も終わった帰り道、隣を歩く彼女が不意に今日の音楽の授業の話を切り出した。俺と同じで音楽の授業が好きじゃない彼女、けど俺は、
「発表とかやる気出ない」
「お前は実技授業いつもやる気ないだろ?」
「今は音楽の話だからー」
鼻歌を歌いながら先を歩く彼女に、どこが音楽嫌いだと悪態をつきながらついていく帰り道。伸びる2つの影が揺れて、なんだかリズムを刻んでるみたいに見えて、ちょっと嫌になったりして。足元の石を蹴ってぶつけてやった、見事左足に命中。
「痛っ、あんたいきなり何すんのよ!」
「足が滑っただけだから気にするなって」
「足は滑らないっての!」
彼女が蹴り返した小石はころんと可愛らしい音をたてた裏腹俺の足にびしりと当たる、あまり痛くないのは制服の面積の差か。それが気に入らなかったのか少し頬を膨らませて俺を睨む、俺はそんな彼女の額を小突いて特に後先考えずに
「今度カラオケでも行くか」
「霧野の奢りなら行ってあげてもいいよ」
「ふざけるな」
「冗談だよ、行きたい」
なんて口走っていた。
「…やっぱあんたにはサッカーが似合ってるわ」
「何か言ったか?」
「別に何も!あーカラオケ楽しみ!」
普通躊躇うんじゃないかっていうのは、気にしないのが俺たちの仲ってことだ。
(次の音楽は課外授業でお願いします。)
016 音楽
-->水屑さま