ぐだぐだ | ナノ



マフラーを巻いて、家を出る。先ほどまで暖房のついている部屋に居たせいか、外が雪国のように感じられる。ひとつ息を吐けば、白く塗られて、やがて音も立てずに消えていく。
さて、もうすぐだろうか。「あいつ」が来るのは。俺は自然と身構える。襲撃には備えないといけない。そろそろだ、音が聞こえてくるだろう。背中から、騒がしい足音が聞こえてくる。まるで恐竜が走ってくるみたいだ。だが俺は足を竦めない。動揺もしない。俺はごく自然に、自然に横によけた。

「うぎゃ!」

やっぱり、と俺は心の中で呟いた。俺がさっきまで居たところに、「あいつ」が寝っ転がっている。オレンジ色のバンダナを巻いて、いつも元気良さそうにしているサッカー馬鹿。
円堂守は、いつもこうやって登下校中に俺を襲撃しに来る。

「なんで避けるんだよ風丸!」
「お前が毎日毎日タックルしてくるからだろ」

こんな会話を、かれこれ一年間は続けている。始まりは中学一年生の春。それから中学二年生になった今でも続けている。たまに素直にタックルされてやるけど、まともに受けると背中がかなり痛くなる。この馬鹿力め。
それにしても冬の朝からこいつは本当に元気だけど、その元気はどこから出てくるのか。まるで謎だ。それで学校に着いてからもサッカーの話ばっかりして、静かなのは授業中くらいだ。といっても、どうせ寝てるかサッカーのこと考えてるだろうけど。

「それにしても寒いな〜サッカーしてあったまりてえ」
「円堂はサッカーしたいだけだろ」
「ばれた?」

小さな子供のような笑顔を見せた。小さな頃からこの笑顔を見続けているけど、何年経ってもこの笑顔は変わらない。ちょっとは昔より大人びたけど、本当に変わらないものなんてあるんだな、と思った。
それともうひとつ、変わらないものがある。俺たちは昔から隣同士だった。もちろん喧嘩は幾度かあったけれど、その度に仲直りしてきた。きっと俺たちは、これからもこうしていくのだろう。円堂が馬鹿騒ぎをして、俺も巻き込まれていく。でもそれが、とても幸せだ。恥ずかしいから言わないけど。

「あー寒すぎる!運動しようぜ!」
「おいおい、またやるのかよ…」
「当たり前だろ!学校まで競争よーいどん!」
「あっ!抜け駆けとかずるいぞ!」

円堂は急に走り出した。たまにやっている学校まで走って、どちらが先に学校に着くかの競争。負けたら、コーンポタージュを奢る。ちなみにこれまで俺は全勝中だ。これでも元陸上部。円堂も足が早いほうではあるが、俺には敵わないのだ。ちょっと開いてた差がだんだんと縮まっていく。風を切り裂いていく感覚が、気持ちいい。肌に冷たい空気が当たるのに、身体が汗ばんでくる。確かにこれは、暖かくなりそうだ。やがて円堂を追い抜くと驚きと悔しさが入り混じった顔で俺を見てくる。この顔が堪らなく面白い。

他の人からしたらただ眠くて、だるくて、寒いだけの登下校だけど。俺たちはそんな登下校を楽しく過ごしてるなんて、ちょっと得した気分になった。

ちなみに今日も俺はコーンポタージュを手に入れた。そろそろコーンポタージュは飽きてしまったけれど、悔しがる円堂を見れるなら、まあそれもいいかと思う。




021 登下校
-->ともえさま




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