18
なまえがデュエル部に入部してから暫く経った頃、俺とは違い彼女はすっかり部に馴染んでいた
島や財前とも気軽に話している姿を遠目から眺めていると、なまえは制服のポケットから何かを取り出しながら俺の元へ駆け寄ってきた
「あのね遊作くん、今日調理実習でクッキーを作ったの。良かったら感想聞かせてくれないかな?」
そう言って差し出された小箱の中には手作りらしいクッキーが数枚入っていた
頷きながらその1枚を手に取り、口へと運んでみる
「どうかな?」
「…味は悪くないが、少し固い気がする。焼き色は問題なさそうだから原因はわからないが。」
俺がそう口にした瞬間一気に周囲が静まり、何故か狼狽した島に部室の隅へと連れてかれた
「馬鹿か藤木!お前、空気読めよ!」
「…何が。感想を求められただけだろう。」
島が捲し立てる理由がわからず首を傾げる中、財前が近付きぽつりと呟いた
「貴方、女心わかってないわね。みょうじさん、傷付いてるかもしれないわよ。」
「…女心?」
財前の言葉になまえの方を振り返れば彼女は小さく眉を下げつつ、小箱をポケットへ戻していた
「クッキーが固かったの気付かなくってごめんね、遊作くん。でも感想をくれてありがとう、次は上手に作れるかも。」
クッキーを仕舞った後も普段とあまり変わらないように見える彼女だが、俺の言葉で傷付けてしまったのだろうか
未だにくどくどと文句を連ねる島を無視し、俺は財前とカードについて語り合うなまえを見つめていた
理解するには難しい女心
―――――
昔、選択授業でクリスマスケーキを作ったのを思い出したので。