一目惚れに気付くまであと少し
「なまえせんせー。」
「なまえせんせい、こっちきてー。」
「はいはい。みんなちょっと待ってね。」
……誰だ?
いつものように子供達が待つ施設へ向かった所、見慣れない人物の姿を見つけ首を傾げる
なまえ先生と呼ばれる俺よりも少し年上に見えるその女性は柔和な笑顔を浮かべ、沢山の子供達に囲まれていた
子供達の視線が俺以外の人物へ向けられる事は普段なら苛立つ所だったが、何故か彼女を見ているとそんな気は泡のように消えていった
「…あっ、鬼塚にーちゃん!」
その時子供の一人が俺の姿に気付き、他の子供達も一緒に此方へと駆け寄ってくる
すると子供に手を引かれ、その女性も俺の方へと近付いてきた
「鬼塚にーちゃん。ほら、なまえせんせい!」
「なまえ…先生?」
「ちょっと前からここにきてくれることになった、あたらしいせんせーだよ!」
「貴方が鬼塚くんなのね、子供達から話は聞いてるわ。先週から此処で子供のお世話をしてる、みょうじなまえって言います。よろしくね、鬼塚くん。」
小さな子供を抱き抱えながらふわりと微笑むなまえという女性
その笑顔に暫し見惚れていた所、子供達が不思議そうに俺の腕を引っ張りふと我に返る
「鬼塚にーちゃん?」
「どうしたの?」
「あ……い、いや何でもない。」
彼女…なまえさんと初めて会ったにも関わらず、俺の心臓の鼓動はどんどん速くなっていく
無邪気に駆け寄ってくる子供達へ視線を向けるものの、いつの間にか視線は彼女を追ってしまっている
「…この気持ちはなんだ?」
不可解なこの感情を理解する術を自分が持っている筈もなく俺は一人、唸りながら首を傾げた
一目惚れに気付くまであと少し
―――――
私にも保育士を目指していた時期がありました。