悪戯に悩ませるだけならば
「はあ……今日やった数学のミニテスト、全然出来た気がしないー。」
「基本問題ばかりで難しいものじゃなかっただろう。」
「それは頭がいい遊作くんだから言える言葉だよー。うー…羨ましいなあ。」
放課後教室内で机に突っ伏して大きな溜め息を吐くなまえ
なまえとは中学に通っていた頃から今現在までずっと同じクラスで、草薙さん以外に同年代で唯一俺が心を許せる存在だった
勉強はあまり得意ではないがいつも元気で明るく、それでいて優しさも併せ持っている
そんな彼女に惹かれるまで時間は掛からなかった
…だけど
「…あっ!彼から部活終わったって連絡来た!」
なまえには数ヶ月前から付き合っている同級生がいる
深くは知らないし知りたくもないが、なまえをとても大切にしているらしいという事は噂で耳にしていた
「じゃあ私はそろそろ行くね。待たせちゃ悪いし。」
「…っ、なまえ。」
席から立ち上がり教室を後にしようとする彼女の手を思わず掴んでしまう
『行くな』
『なまえが好きだ』
『俺じゃ駄目か』
なまえに聞いてほしい、伝えたい言葉がどんどん溢れ出てくる
だが、仮に彼女へ伝えたとしてもただ悪戯に悩ませてしまうだけなのはわかっている
彼女は優しいから
「遊作くん?」
「……いや、何でもない。」
「えー、変なのっ。」
何も言わず手を放した俺を見て小さく笑うなまえ
そう、これでいい
なまえは何も知らなくていいんだ
「また明日ね、遊作くん。」
「ああ。…また明日。」
優しいなまえを困らせる訳にはいかない
だからこの想いは伝えず、胸の中へ秘めておこう
痛む胸に気付かぬフリをして俺はそっと教室を後にした
悪戯に悩ませるだけならば
―――――
遊作の片思い風味。