おそらくこれは好意
「あっ!ねえ見てAi、キレイな三日月!」
『おー、確かに見事だな。』
遊作の所へ遊びに来た幼馴染みのなまえはデュエルディスクを持ったまま窓辺へと立ち、夜空に浮かぶ三日月を指差している
若干薄い雲が掛かってはいるものの、その様相がより月の情緒を醸し出していた
「そうだAi、昔の文豪が『I LOVE YOU』を『月が綺麗ですね』って訳した話って知ってる?」
『夏目漱石だろ?でもあの話、ガセっつーか信憑性は薄いぜ。』
「そうなの!?えー、すっごくロマンチックな話だと思ったのにー。」
俺の言葉を聞けば大きな溜め息を吐いて肩を落とすなまえ
如何にもな話なのに信じてたのか
「…まあそれもそうか。むしろ曲解過ぎたと考えればいい訳か。」
『なまえがそれでいいならいいんじゃね。つーか、なまえだったらどう訳すんだ?』
そう告げた俺に対し、にこりと笑いながら俺の頭を撫でる仕草をするなまえ
勿論、俺の体はデータだから触れる事は出来ないんだけどな
「私は回りくどい言い方は好きじゃないし、そのままストレートに訳すかなー。『私はあなたを愛してます』って。」
『なまえらしい考え方だな。』
「だからね、これも回りくどく言わずにストレートに言うから。もしAiが記憶を取り戻しても、何処かに行くの禁止!ちゃんと傍にいてよね。」
そう言って俺を指差すなまえ
…なまえのこーいう所が可愛いんだよな
『あったり前だろー。記憶があってもなくても、俺はなまえの傍にいてやるよ。』
AIの俺にとって人間の感情は複雑怪奇で理解し難いものだ
それでもなまえが可愛い、傍にいてやりたいって思うこの気持ちは所謂『好き』って感情なのかもな
おそらくこれは好意
―――――
冒頭の夏目漱石の件、信憑性が薄いって事を初めて知りました。