彼女の頼みは断れない
「ここでfor文を使う。そうすれば後はわかるだろう。」
「そっか。えーっと、ここをこうして…」
授業を終えた平日の夕方、幼馴染みのなまえが自宅へとやって来た
それというのも提出物のプログラム構築に苦戦していたらしく、助言を貰おうと俺を頼ってきたらしい
「ありがと遊作、これで何とかなりそうだよ。」
「礼を言われる程の事はしていない。それよりさっきから大雨が降っている、早く帰らないと雷が…」
そう言い掛け口を滑らせたと後悔したが既に後の祭り、明らかに表情の固まったなまえの姿が視界に入る
そして俺が言葉を紡ごうとした瞬間、大粒の雨に混じって大きな稲光が走った
「きゃあああ!カミナリやだあっ!」
「落ち着けなまえ、此処に落ちた訳じゃない。」
冷静な口調で彼女を宥めようとするもののなまえは幼い頃からヘビよりハチより、何よりも雷が苦手で
雷という単語を耳にしただけでも不安がるのに今は実際に雷を見てしまった為、余計に取り乱してしまっていた
「…なまえ、」
「…ダメ。雨が降り止むまで外出れない、怖い。」
「なまえの両親から迎えに来てもらうか?」
「お母さん達、旅行に行ってて家に今誰もいない。」
彼女の両親から迎えに来てもらう案もどうやら駄目らしい
どうするべきか思案していた所、いつの間にかなまえは俺のベッドへと移動し布団をすっぽりと被っていた
「なまえ、何をしてるんだ。」
「…今日遊作のトコ泊まる。だって雨も雷も止みそうにないもん。」
「そういう訳にもいかないだろう、雨が小降りになったら送っていくから…」
「絶対イヤ。」
梃でも動かなそうななまえに小さく溜め息を吐く
こんなやり取りをしたのも一度や二度ではないというのに
「…わかった、泊まっていけ。」
やはりなまえに対してはどうしても甘くなってしまう
何度も同じ答えを返す自分に呆れつつも、安堵したようななまえの表情を見ると彼女の頼みはいつも断る事が出来ないのだった
彼女の頼みは断れない
―――――
ヘビよりハチより雷より、蚊が嫌いです。