初めて私自身を見てくれた人
私がデュエル部に入部してから暫く経ったが、随分と部活も様変わりした
後から入部してきた同じクラスの島直樹と藤木遊作
そして…
「今日は料理部で作った柑橘ゼリーをお裾分けでーす。皆さん、どうぞ!」
春に転校してきたという学年が1つ上のみょうじなまえ先輩
彼女は料理部との掛け持ちで入部してきた希有な存在だった
「はい、葵ちゃん。」
「…ありがとうございます。」
私にゼリーを手渡し、隣へと座るみょうじ先輩
皆に分け隔てなく接してくれる彼女だが、本当はSOLテクノロジーへの就職や最新のデュエルディスクが目当てなんじゃないだろうか?
今まで自分に近付いてきた人間はそんな人物ばかりだった為、私はどうしてもみょうじ先輩の優しさを素直に受け取れずにいた
「葵ちゃん、どうかした?」
「あ…いえ。…みょうじ先輩はどうしてデュエル部に入部したのかなって。」
みょうじ先輩から急に尋ねられ、慌ててそれらしい理由を紡ぎ出す
彼女はそんな私の心中を知らぬまま暫く考え込んだ後、満面の笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた
「んーとね、私お菓子作りが好きなんだけどデュエルも同じ位好きで。将来はデュエルも出来るパティシエ!…みたいな人になりたくてさ、それでデュエル部に入ったの。」
「…そう、だったんですか。」
私は馬鹿か、どうして全てを自分の物差しで計っていたのだろう
みょうじ先輩は最初から『SOLテクノロジー社、財前晃の妹』としてじゃなく、『財前葵』として接してくれていたのに
「…みょうじ先輩。」
「ん?」
「いただきます。」
私が一言そう言うと、彼女は嬉しそうに頬を緩ませる
口内に運んだゼリーは爽やかで甘酸っぱい、夏の味がした
初めて私自身を見てくれた人
―――――
自分で考えておきながらデュエルの出来るパティシエって何かと思いました。