黄昏の中、俺は彼女を抱き締める


その日は教室に忘れ物をして偶々取りに戻る、ただそれだけの筈だった

日が傾き始めた夕暮れ、誰もいない筈の扉を開くとそこには同じクラスのみょうじが一人窓際へ寄り掛かっていた


「……みょうじ?」

「あ…藤木くん。どうしたの、もう帰ったんじゃ?」


「教室に忘れ物をした。…みょうじこそ何故、泣いているんだ。」



窓際へ立っている為影になっているが、確かに彼女の頬には涙が伝っていた


「…あ、ごめん。変な所見られちゃったね。」


片腕で涙を拭うと彼女は気丈に振る舞いながら少しずつ口を開き始めた



「私ね、入学当初から付き合ってた男の子がいたんだ。…でもその子には本命の彼女がいたみたいで。聞いてみたら私とは遊びだったってさ。」


吹っ切れたように笑顔で言葉を紡ぐもののやはり傷付いているのか、なまえの声は震えたままだ



「遊ばれてるのにも気付かないで一緒に帰ったり、手を繋ぐだけで満足しちゃってさ…ホント馬鹿だよね、私。」



そう言って再び笑うみょうじの姿を見ていられず、俺は無意識に彼女の頭を撫でていた



「藤木、くん?」

「無理に笑う必要はない。…此処には俺以外に誰もいないから、泣きたい時に泣けばいい。」


「……っ、ありがとう、藤木くん。」



小さくそう呟き嗚咽を漏らすみょうじ

傷付いたみょうじの姿を見ていられず俺は彼女の小さな体をそっと引き寄せ、静かに抱き締めた


黄昏の中、俺は彼女を抱き締める

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漫画だけじゃなく小説等も読んでいますが、本当にセンスが欲しいです。
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