結婚を前提にお付き合いを
「鬼塚にーちゃん、これなーに?」
施設の子供達が遊びに来たある日、ジムの中を駆け回っていた子供の内の一人が何かを持って俺の元へ駆け寄ってくる
よくよく見るとそれは古い手紙で、とても見覚えのあったその代物に俺は慌ててその手紙を子供から受け取った
「これはな、俺にとって大切な人から貰った手紙なんだ。」
「大切な人?鬼塚にーちゃんのカノジョとか?」
「い、いや彼女とかそういうのじゃなくてな……まあ、とにかく大切な人からの物なんだよ。」
そう言いながらもう一度その手紙を眺め、差出人の名をそっとなぞる
「なまえ…元気にしてるだろうか。」
手紙の差出人は施設で共に過ごした同年代のなまえという少女からの物で、1年という短い間だったがとても仲が良かった人物だ
なまえが市外の裕福な家庭へ養子に迎えられる際、施設から離れるのを嫌がった彼女が大泣きしていたのをよく覚えている
「…そういえばなまえと約束事をしていたな。大きくなったらなまえをお嫁さんにする、とか。」
何とか彼女を泣き止ませたい気持ちと彼女への好意が入り交じり、子供とは言えとんでもない事を口にしたものだ
そう思って自嘲気味に呟いた瞬間、外へ散歩に行っていた子供達が戻ってきた
だが行きと違っていたのは見慣れない少女…女性を連れて戻ってきた事だ
「お前達、この人は一体…」
「久しぶりだね、鬼塚くん。」
そう言って柔らかく微笑む眼前の女性
その笑顔に俺は見覚えがあった
「なまえ、か?」
「うん、そう。お義父さんの仕事の都合でDenCityに戻ってきたんだ。」
頷きながら俺の元へ駆け寄ってくるなまえ
彼女との再会の喜びに浸っていた所、ふとなまえが口を開く
「鬼塚くん…私が施設を後にする時に言ってくれたよね。『大きくなったらなまえをお嫁さんにする』って。」
「…覚えてたのか。」
「勿論。でもお嫁さんはまだちょっと早いから…」
『結婚を前提に、私とお付き合いして下さい』
そう耳打ちして彼女は眩しい程の笑顔を浮かべた
結婚を前提にお付き合いを
―――――
案外長くなりました、すみません。