彼女から精一杯のアプローチ
「あ、あの。ホットドッグ1つ下さい。」
最近ウチの店に一人の女子高生が足繁く通ってくれるようになった
遊作と同じ学校で、日が暮れるまでいつもこの広場でスケッチをしている大人しそうな女の子だ
「はいよ。お嬢ちゃんいつも此処で絵を描いてるよな、絵好きなのか?」
「あ……は、はい。」
出来上がったホットドッグを手渡しながら尋ねるとその子は恥ずかしいのか、俯きながら小さく頷く
「お、じゃあ今度その絵、見せてくれないか?興味あるんだ。」
「…え?そ、その……」
彼女の持つスケッチブックを指差しながら尋ねたものの、彼女は急に頬をリンゴのように赤く染めると走り去ってしまった
俺、何か気に障る事を言ったか?
その後彼女はぱったりと広場に現れなくなり、やっぱり余計な事を言ってしまったのかと若干自分の言動を後悔していた
「…こ、こんにちは。」
そんな事を考えていた数日後、久しぶりにあの子が店にやって来た
「おお、久しぶり。やっぱり俺が余計な事を言っちまったから…」
「あの、その……こ、これをずっと描いてました。上手に描けてなくて…す、すみません!」
「え?これお嬢ちゃんのスケッチブック……あれ、おーい。」
不意に差し出されたスケッチブックを受け取ったものの、彼女は一目散に広場から逃げ出してしまった
彼女が逃げ出した理由がイマイチわからず、首を傾げながらスケッチブックのページを捲ってみる
「これは……俺か?」
そこには景色や植物の他に、店でホットドッグを作る俺の姿が描かれていた
「上手に描けてない訳ないだろ。…そっくりだ。」
真っ白なページに描かれている自分自身の絵に思わず苦笑しつつ、ふとスケッチブックの裏を見てみた
そこには『みょうじなまえ』としっかり名前が記されている
「なまえちゃん、ね。」
明日からはあの子を名前で呼んでみよう
そう思いながら俺は静かに店を閉めた
彼女から精一杯のアプローチ
―――――
昔、静物画を描くのが好きでした。美術系の学校ではありませんでしたが。