名もなきヒーロー
「……はあ。今日はこれですか。」
ある日の夕暮れ
部活を終えた私が帰路に就こうとしていた所、教室前の廊下に何かが散らばっているのが遠目から見えた
そしてそれが自分の物で散らばっている物が教科書である事も理解した私は其方へと向かい、盛大な溜め息を吐く
「今時こういう事する人、本当にいるんだもんなあ。…ま、破かれるとかよりマシだけど。」
平々凡々に生きてきた私が何故こういった嫌がらせ染みた事をされているかと聞かれると、それはおそらく一週間程前に行われた結構大きなデュエル大会が切っ掛けだと思う
…というのも決勝で戦った相手が同じクラスの派手めな女子が相手だったのだがデッキがいい感じに上手く回った結果、所謂ワンキルで彼女を下して私が優勝したのがどうにも気に食わなかったらしい
次の日から彼女はクラスメイトや先生が見てない所で小さな嫌がらせをしてくるようになったのだ
「ホント、しょーもないなあ。」
「何がだ。」
「…へ?あ、藤木くんか。」
廊下で黙々と散乱した教科書を拾い集めている私に声を掛けてきたのは同じデュエル部の部員で、隣のクラスの藤木くんだった
「みょうじ、どうしてこんな場所に教科書が散乱しているんだ。」
「えーっと、まあかくかくしかじかで……」
「…理由はわかった。教師には言わないのか。」
「んー、そのうち飽きるだろうし面倒だからいいかなって。別に私、悪い事した訳じゃないからね。」
「そうか。」
その後何だかんだで藤木くんは教科書を拾い集めるのを手伝ってくれた
あんまり喋った事はなかったけど、藤木くんって実はいい人なのかも
そんな事を考えつつ彼にお礼を言い、私は学校を後にした
それから1ヶ月後、私に嫌がらせをしていた彼女は突然転校していった
特に親しい訳でもなくましてや嫌がらせを受けていた身では知るよしもないが、私に対する嫌がらせの行動を誰かが撮影したものがネット上に拡散されたとか、彼女自身が撮影した迷惑動画が警察に目をつけられたとか…真偽が定かでない噂がまことしやかに流れていた
「みょうじ。」
そして、教科書を拾ってくれた次の日から何故か藤木くんは毎日私を家まで送ってくれるようになった
「ねえ藤木くん、どうして毎日私を送ってくれるようになったの?いやまあ、私がいつもぼーっとしてるからマンホールに落ちそうで心配とか言われたらそれはそれである意味ショックだけど。」
「別にそういう訳じゃない。…嫌がらせは平気か。」
「うん?まあ嫌がらせしてた張本人が転校しちゃったからね。」
「そうか。…もう大丈夫そうだな。」
「?」
結局藤木くんから答えらしい答えは聞けなかったけれど嫌がらせもなくなったからいいかな、なんて
私に対する嫌がらせをなくしてくれた名もなきヒーローに感謝しながら、私は今日も藤木くんと一緒に帰るのだった
名もなきヒーロー
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勿論ネットに拡散したのは遊作です。