驚きのち困惑、時々感謝の心模様
「……はあ。」
LINKVRAINS内で賑わいを見せるエリアに佇む一際高いビルの屋上にて
私は一人、電脳空間に広がる作られた空に向かって大きな溜め息を吐いていた
「うーん…どうにもデッキが上手く回らないなあ。これから大きな戦いがあるっていうのに。」
リボルバー様から告げられた、光のイグニスの人類に対する宣戦布告
いつ来るとも知れない戦いの前にデッキ調整をしてAI相手にシミュレーションを重ねていたもののどうにもデッキの回転率が悪く、勝率はやっと6割といった所だった
「うう、これじゃリボルバー様の足手まといになっちゃう。何とかしないと…」
「おや、あばたーではありませんか。」
「え?……っ!ス、スペクター様!?」
ふと背後から声が聞こえた為振り返ってみるとそこにはスペクター様がいたのだが、その距離はおよそ20cmしか離れていなくて
驚いた私は思わず屋上から落ちそうになってしまった
「あばたー、何もそこまで驚く必要はないでしょう。」
「い、いや急に声を掛けられたのでびっくりしちゃって……あ、あはは。」
そもそも私は何を考えているかよくわからないスペクター様が少し苦手で、その所為で必要以上に驚いてしまったのもある(まあそれでも、一番苦手なのは如何にもマッドサイエンティストって感じのゲノム様なのだが)
「それよりもあばたー、何故溜め息を吐いていたのですか?」
「え、えーっとですね……光のイグニス達の戦いに備えてデッキ調整をしてたんですけど、何だか上手くいかなくて…」
…ああ、きっと何をやってるんだとかそんな腕でリボルバー様の役に立てるのかとか罵られるんだろうな
スペクター様、そういう事嬉々として言いそうだし
「よろしければ私がお手伝い致しましょうか?」
「はあ、すみません……えっ!?」
今、スペクター様は何て言ったんだろう
空耳じゃなければ私のデッキ調整の手伝いをするって聞こえたんだけど
「でも、スペクター様の手を煩わせる訳には…」
「あばたー、貴女のデッキは魔弾と名の付くモンスターと魔法、罠を中心としたコントロール型のデッキでしょう。リンクマジックを警戒するあまり、汎用カードを入れすぎるのも考えものですよ。」
「う……す、すみません。」
確かに、スペクター様の言う通りかも
リンクマジックを警戒して汎用カードを詰め込んだのはいいけど、その所為でデッキ自体の回転率が悪くなっては本末転倒だ
「私ならばこのカードは外します。似通った効果を持った此方のカードの方が使い勝手は良いですからね。」
「な、なるほど。」
「後はモンスターの採用枚数も考えて……あばたー?」
流石はリボルバー様の右腕と呼ばれているスペクター様、使ってる本人よりもデッキの事をわかってるみたい
でも、相変わらず距離が近すぎるのは一体何故なのか
「あばたー?」
「い、いえ何でもありません!」
明らかに格下相手のデッキ調整にも付き合ってくれるスペクター様に感謝をしつつも、近すぎる距離感に対し私はただ困惑と戸惑いを覚えるしかなかった
驚きのち困惑、時々感謝の心模様
―――――
魔弾もいつか組んでみたいです。