人工知能が抱いた愛情
「あ、穂村。明日の選択授業の事だけど…」
「ゴメン、今日は急いでるんだ。悪いけど明日もう一回聞かせてもらうよ。」
ある金曜の夕方
全ての授業を終えた尊はクラスメイトとの会話もそこそこに、慌てて学校を飛び出す
普段ならばPlaymakerを誘って草薙殿の店へ向かうのが彼の日常だった訳だが、どうやら今日はいつもと違うらしい
「さっき叔母さんから連絡があって、なまえが僕に旅行で買ったお土産を持って行くからDencityに向かったって言われたんだよ。もう心配でさ…。」
尊が心配するのも無理はない
なまえは尊の従妹にあたる少女で、確か年齢は6歳だったと記憶している
そんな幼い子供が一人でこの大きな街に来るだなんて、考えただけでも気が気じゃないんだろう
私がそんな事を考えていたのも束の間、全力疾走で駅に着いた尊の元に小さな少女が駆け寄ってきた
「尊おにいちゃん!」
「なまえ!はー……良かった、無事だったんだね。」
「?私、もう一人でバスも電車も乗れるよ?」
「そういう事じゃ…まあいいや。とにかく、僕の家に行こうか。」
そう言って尊はなまえと手を繋ぎ、道を歩き出す
その際、尊の片腕にデュエルディスクが着用されている事に気付いたなまえがキラキラと目を輝かせ始める
「あっ!つくもがみさん!」
「いやなまえ、不霊夢は付喪神じゃなくてAI…」
『良いのだ尊。まだ小さななまえにAIと説明してもなかなか理解出来ないだろう。』
それに、なまえが私の存在を知ってしまったのは尊の部屋に入ってきたなまえと尊を間違えて声を掛けてしまった事が原因で
常々祖父から付喪神と呼ばれる存在を教えられていたなまえは完全に私の事を付喪神と認識してしまい、現在に至る…という訳だ
「あのね、尊おにいちゃんのおみやげはとってもおいしいお菓子なんだよー。」
「嬉しいなあ。ありがとう、なまえ。」
「あとねあのね、つくもがみさんにもおみやげがあるの!」
そう言ってなまえは背負っていたリュックから一枚の画用紙を取り出す
そこには色とりどりのクレヨンを使って描かれた私と尊、そしてなまえの絵が描かれていた
『これを…私に?』
「うん!」
にこにこと屈託ない笑顔を浮かべながら私に絵を見せてくるなまえ
…この小さな少女をあらゆるものから守ってあげたいと思う、この気持ちは一体何なのだろう
「どうした?不霊夢。」
『いや……尊。なまえが描いたこの絵は大切に、大切に残しておいてくれ。』
「はいはい、わかったよ。」
あの時の気持ちが愛情である事に私が気付くまで、そう時間は掛からなかった
人工知能が抱いた愛情
―――――
不霊夢は面倒見が良さそうですよね。