新年最初のご利益
「うわあ、凄い人混み…!ごめんね遊作くん、私が初詣に行きたいなんて言ったばっかりに…」
「気にするな、みょうじ。」
「う、うん。」
眼前の人混みに圧倒されてるらしいみょうじに声を掛けた所、彼女は小さく頷きながら少しだけ顔を俯かせる
今日は1月1日、所謂年始めと呼ばれる日で
この日は半年程前から付き合い始めたみょうじに初詣へ行こうと誘われていた為、こうして彼女と二人で神社へと赴いたのだ
「あ、あの!遊作くんは毎年お参りしに来るの?私は毎年来てるんだけど。」
「みょうじに誘われて初めて来た。」
「そ、そうなんだ。」
俺がそう答えると困ったように笑いながら再び顔を俯かせてしまうみょうじ
元々口数が少ないと自負している事に加え、好意を寄せている相手が隣にいる状態では何を話していいのか余計にわからない
これではみょうじに迷惑を掛けているのと同じじゃないだろうか
そんな事を考えていた矢先、不意にみょうじが俺の片腕を引っ張った
「どうした、みょうじ。」
「あの……ほ、ほら遊作くん、お守り売ってる所あっちにあったよ。知り合いの人にお守り、頼まれたんだよね。」
「ああ。」
「私は絵馬とおみくじをしようと思ってるんだけど多分長くなるだろうし、後で此処に合流でもいいかな?」
「わかった。」
それから一旦みょうじと離れた俺は草薙さんから頼まれたお守りを購入した為約束の場所へ向かっていた所、書き終えた絵馬をくくりつけて何かを強く願っているみょうじの姿を見つけた
だが彼女は俺の姿に気付いた様子はなく、そのままおみくじを引きに行ったようだった
その場に残った俺はというとみょうじが絵馬に書き記した願いがどうにも気になった為、彼女に悪いと思ったがその記された願いに視線を落とす
そこには丸みを帯びた小さな字で『遊作くんともっと仲良くなれますように。遊作くんが私を名前で呼んでくれますように。』と書かれている
すると暫くしてそこにみょうじが息を切らしながら戻ってきた
「…あっ!遊作くんはもうお守り買い終わったんだね。おみくじの所が混んでたから、もしかして待たせた……」
「なまえ。」
「あ、うん。……え…ええっ!?」
何故か突然顔を赤くして叫び出すみょうじ…いや、なまえ
ただ彼女の事を名前で呼んだだけだというのに
「あまり長い時間、寒空の下にいたら風邪を引く。帰ろう、なまえ。」
「そ、そうだよね!帰ろう!うん、帰ろう!」
未だにぎこちない声色のまま俺の隣を歩くなまえだったがその表情は如何にも嬉しさが滲み出ているようで、何処となく此方も嬉しくなる
そんななまえの右手には大吉と書かれたおみくじがしっかりと握りしめられていたのだった
新年最初のご利益
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あけましておめでとうございます。