恋愛対象外は無効になりました


「はい、ホットドッグとコーヒー。いつもありがとね。」

「いえ、此処のホットドッグが好きなので。」



仕事を終えた私が帰宅前に向かったのは広場にある小さなホットドッグ店

最近の私が一番気に入っている店だ


「今日もお姉さんが来てくれてアイツも喜んでるよ。」

「ああ…彼ですね。」



そう言うが早いか否か

一人の男子高校生が満面の笑みで私の元へと駆け寄り、ストンと私の眼前へと腰を下ろした


「みょうじさん。今日もお仕事、お疲れ様です!」

「…君も毎回飽きないね、穂村くん。」

「え、何がですか?」


その男子高校生…穂村尊くんは一週間程前にたまたま私が落とし物を拾ったら相手だったのだが、たったその小さな切っ掛けだけで彼は所謂一目惚れというものを私にしたらしい

そしてほぼ毎日、このホットドッグ店で彼に会う事も私の日課になっていた



正直社会に出て早数年が経った中で末の弟と同じ位の少年に好意を寄せられるなんて思ってもみなかったし、好意的に見ても弟位にしか見えないからそもそも彼は私にとって恋愛対象外なのだ

大体一目惚れとは言っていたものの、彼が『年上の社会人』という肩書きに抱いた憧れと恋愛感情を混同している可能性もある

ならば早めに指摘してあげる方が彼…穂村くんの為になるんじゃないだろうか

そう思いながら無言でホットドッグを食していた所、気が付くと私の近くには如何にもチャラついた感じの男達が数人来ていた



「おねーさん、今一人?」

「暇なら俺等と遊ぼうよ、ね?」



正直言ってこれから帰って来週の会議に使う資料作りをしなきゃいけないから暇じゃないし、仮に暇だったとしても絶対ついていきたくない相手だ

さて、これからどう断ればスムーズに帰れるかなんて考えていた所、さっきまで座っていた穂村くんが彼等と私の間に立ち塞がった



「何だ?お前。」

「今、みょうじさんは僕と話してる途中なんです。邪魔しないでもらえますか?」

「ガキが、生意気言ってんじゃ…」

「邪魔、しないで下さい。」



ハッキリとそう口にした彼の表情はよく窺えなかったものの、その瞳はまるで強い意志を持った炎のようで

まさに目は口ほどに物を言うといった感じで、すっかり気圧されてしまったらしい男達はそそくさとこの場を去っていった



「ありがとう穂村くん、助かったよ。」

「い、いや勝手に追い払っちゃってすみません!何だかみょうじさん、困ってるように見えたんで…」


先程までの威勢は何処へやら

見るからに叱られた子犬のようにシュンとしている彼の姿が何だか可愛らしくて、私は小さく吹き出してしまう



「え、えっ!?俺、何かおかしな事言いました!?」

「あ、ううん。違うの。そんな事よりもさっきのお礼に明日、ランチでも奢らせて。」

「……え?」

「予定があるなら無理にとは…」

「ありません!」

「そう。じゃあ明日のお昼にまた此処でね。」



食べ終えたホットドッグの包み紙をゴミ箱へ捨てる際に一瞬見えた彼の顔は喜びに満ち溢れていて

何だかちょっとだけ可愛いな、と思っている私がいるのだった


恋愛対象外は無効になりました

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自分が社会人な事もあって社会人の主人公も多い気がします。
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