おかえり、ただいま
「なまえ、委員会終わったの?」
「尊くん。」
「このまま草薙さんの店に行くんだよね、一緒に行こうよ。」
少し長引いた委員会が終わり玄関へ向かった所、そこにはもうとっくに帰ったと思っていた尊くんがいて
彼は私が何かを発する前に人が良さそうな笑顔を浮かべ、草薙さんの店へ行こうと促した
「それにしても今日渡された進路希望のプリントだけどさ、僕はまだ全然どうしたいのか決まってないんだよね。クラスの皆は大学とか、プロデュエリストとか言ってる人もいたけど……」
不霊夢がいなくなってから、もう2年は経っただろうか
大好きだった不霊夢が消えてしまったショックからすっかり元気を無くしてしまった私に対し彼の相棒だった尊くんは勿論、草薙さんや遊作も気を使ってくれたりとても良くしてくれた
でも未だにふとした瞬間、寂しさに押し潰されそうになって泣きそうになってしまう
「……って事を言ったりしてて…なまえ?」
「…ごめん、尊くん。今日は帰るね。」
「えっ、なまえ!?」
背後から困惑したような尊くんの声が聞こえてくるけど、このまま泣きそうな顔でお店に行ったらまた皆に心配掛けちゃう
零れそうな涙を必死に抑え、私は無我夢中で自分のアパートへと向かった
「……また心配掛けちゃった。」
アパートから見える真っ赤な夕焼けを眺めながら私は一人、後悔から頭を項垂れる
この状態を引きずっていた所でいつも明るい笑顔を浮かべている私が好きだと言ってくれた不霊夢が悲しむとわかってはいるけど、あれからどうしても私は笑う事が出来なくなっていた
「こんな私を見たら…不霊夢はきっと呆れて溜め息を吐くんだろうな。」
『そんな事はない。どんな状態でもなまえはなまえだ。』
「……あれ。私、遂に幻聴まで聞こえるようになっちゃったのかな。」
『幻聴ではないぞ、なまえ。』
幻聴が幻聴じゃないって言ってる?
いや、もうそれ自体が幻聴って事?
もう何が何だかわからないまま声の発信源を探していると、その声は私のデュエルディスクから発せられているようだった
『ようやく気付いてくれたな、なまえ。』
「本当…本当に不霊夢なの?」
『ああ。ネットワーク上に残っていた僅かな残渣を構築して戻ってきたんだ。ただ、完全な姿までは構築出来ずに音声のみの存在となってしまったがな。』
「そんなの全然気にしないよ!私、不霊夢がいなくなってからずっと……ずっと寂しくて…っ、」
『な、泣かないでくれなまえ。私はもう、君の涙を拭ってやる事が出来ないのだから。』
声だけでも不霊夢が慌てているのが凄くわかる
姿が無くてもやっぱり不霊夢は不霊夢なんだ
「……えへへ。おかえり、不霊夢。」
『ただいま。私の…愛しいなまえ。』
相変わらずデュエルディスクに不霊夢の姿が現れる事はないけれどそれでも今、不霊夢は此処にいる
それが何よりも嬉しくて、私は涙を流しながらディスクにそっと口付けた
おかえり、ただいま
―――――
新章突入で不霊夢達がいないのはショックでした。