ファーストキスはコーヒー味
「知ってますか、あばたー。ファーストキスはレモンの味がするらしいですよ。」
「…え、いきなりどうしたの?スペクター。」
リボルバー様にLINKVRAINSの内外からライトニング達を探すよう命じられた私はスペクターと組み、こうして彼等を探していたのだが…
突然ふらっといなくなったと思いきやいつの間にか戻ってきていたスペクターが急に突拍子もない事を言い出すものだから、私は目を丸くしながらスペクターに尋ね返す
「セントラルステーションで一般プレイヤーがそんな事を言ってたのを耳にしたんですよ。はい、どうぞ。」
「そうなんだ。あ、ありがと。」
そんな事を言いながら彼はセントラルステーションで売られている期間限定販売のレモンスカッシュを差し出してくる
…あ、これこの間飲んでみたいって言ってたやつ
スペクター、覚えててくれたんだ
「でもそういうのってあくまで噂だし…それに、何もない所からレモンの味がする方が変じゃない?」
「あばたーはリアリストですねえ。では、貴女のファーストキスはどんな味がしたんですか?」
「…いや、まだそういう経験ないから。」
実の所、私はスペクターに恋をしている
もうこの恋心はかれこれ数年ものだ
仲間であり年上のお姉さんやお兄さんのように慕っているバイラさんやファウストさんには気持ちを伝えたらどうだと言われているものの、私にはどうにもスペクターが恋愛感情を持ち合わせているとは思えず尻込みしてしまっているのだ
…いや、だって何が何でもリボルバー様命!みたいな感じだし、他に興味がありそうなのは聖天樹位だし…
少なくとも彼にとって私はモブハノイ以上、位の立ち位置なんだろうなあ……
…もうそろそろこの不毛な恋を諦めた方がいい時期に差し掛かってきているのかもしれない
ぼんやりとそんな事を考えていた所、ふと気付けば私の眼前にはにっこりと笑うスペクターの顔があって
ふわりと彼が飲んでいたコーヒーの香りがしてきたと認識した瞬間、唇に何か柔らかいものが当たる感触を覚える
それがスペクターの唇で、彼にキスされたんだと気付くのにそう時間は掛からなかった
「…えっ!?え、ちょ……ええ!?」
「どうですあばたー、ファーストキスはレモンの味がしましたか?」
「そ、それは…その……」
恋心を寄せてる相手に唇を重ねられ
尚且つその味を尋ねられるなんて答えられる筈がないのに、彼…スペクターは楽しげに私の真っ赤な頬を両手で包んでくる
「あばたー?」
ああ、絶対この人には逆らえない
彼の吸い込まれそうなスカイブルーの瞳に見つめられながら、私は彼に自分の恋心を伝える以外の選択肢がない事を思い知らされたのだった
ファーストキスはコーヒー味
―――――
スペクターは好きな子には意地悪しそうな感じです。